「おまえが余を暗殺しようとした動機を知りたい。個人的恨みか、それとも誰かに頼まれたのか?」 「どちらでもない。姉の弔い合戦だ」
「弔い合戦? 余がおまえの姉を殺したというのか? まったく身に覚えがないが」
「しらばっくれるな! おれの姉は美人で有名だった。おまえはそれを妬んで姉を逮捕させて、飢えた兵士たちの慰み者にしたんじゃないか! 姉はそれを苦にして…… 」
「おまえが嘘をついてるのでなく、そうだと信じ切っていることは分かった。だがそれは事実でない。事実でないことも証明できるぞ。そもそも余は誰かを妬んだことがない。強さでも美しさでも悪どさでも、余を凌駕する者など存在するわけないからだ。おまえの姉が逮捕され兵士たちの慰み者にされたのが事実だとしても、それを命じたのは余ではない」
士官はハッとしたような表情になった。
「言ってる内容はいかれてるが、筋道は通っている」
「おそらくおまえの姉を逮捕させたのは今回のおまえの行動に手を貸した者だろうな」
「まさかブラッキー様が!?」
「ブラッキー!?」
男が口を滑らせたブラッキーは常勝将軍と敵に恐れられる魔国軍の最高司令官だ。いつも挑戦的な視線を余に向けてくる。忠実な部下とはとても言えない。ふてぶてしい男だが、裏表のある男よりよほど好感が持てる。そう思い込んでブラッキーの増長を放置したのは余の大失態だったのかもしれない。今さら後悔しても、もう手遅れだろうが。
「ブラッキーが黒幕なら、すでにこの陣地は包囲されてるのだろうな」
士官の男は口を閉ざした。答えないことが答えだ。
すぐ近くで戦闘が始まったのはそれからまもなくだった。もちろん攻めてきたのはディオン王国の残党などではない。ブラッキー配下の魔国正規軍だ。
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