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─治視点
俺は宮治。侑とは兄弟であり、セフレ関係でもある。
お互い彼女を作るのは乗り気ではなく、かといって溜め込むのも良くないので、発散の為に行為をするようになった。
最初は侑から誘ってきたから、俺に何らかの感情は持っていると思っていた。だっていくら彼女を作らなくても、兄弟で、しかも同じ顔の双子とやろうとなんて到底思わないから。
そんな侑が突然好きな人ができたと言い出した。俺と行為をすんのも辞めると。
昨晩まで俺の下であんあん鳴いていた侑がまさかこんなことを言い出すとは思いもしなかった。
そもそも、今まで散々俺に抱かれてきた侑が、今更女と付き合うとは思えない。
何となく侑が他のやつのとこにいくのが気に入らなくて、ちょっと反抗した。
でも言い切る前に、「お前も彼女おるやろ」と言い返されてしまった。
確かに彼女はいる。でも別に好きでもないし、夜を一緒に過ごしたこともない。
色々考えているうちに、侑は部屋から出ていこうとしていた。
ドアノブに手をかける。そのまま出ていくかと思いきや、振り返り俺を見つめる蜂蜜色の瞳。
何がを訴えるような目。きっと俺に引き止めて欲しいのだ。 瞳は少し潤んでいた。そんな目で見つめられても困る。
俺には引き止める気もなければ、その権利もない。セフレだから片方に本命ができればそこでお終い。
侑は諦めたのか、のそのそと部屋から出ていった。
今この瞬間からただの双子になった。
自分からこの関係をたったのに、どうしてあんな悲しそうな顔をしていたのだろう。
侑の考えていることがわからなかった。
(まあ侑やし。寝て起きたらいつもみたいな能天気なアホに戻っとるやろ。)
特に気にも止めず、寝る準備を始めた。
─────
───
次の日。いつものようにアラームで起きると、片割れの気配がなかった。
上の段を見てみれば、そこにあったのは脱ぎ散らかされたスウェットと、使われた形跡のない布団だけだった。
リビングに行くと、着替えを済ませ、朝食を食べ始めている侑がいた。毎朝のルーティンと化している「おはよう」の挨拶がないことや、目が一度も合わないことに違和感を覚えた。
どこか急いで食べているようにも見える。
「ツムおはよ」
「はよ」
「今日早いやん、なんかあるん?」
「日直やからな」
やはり昨日のことを気にしているのだろうか。他者からみたら普通に見えるかもしれないこの会話も、俺らからしたら明らかに不自然だ。
なぜこんなに引きずっているのだろう。侑の性格上、すぐに切り替えられるようなことなのに。
普通の兄弟に戻っただけだ。なにももう会えなくなる訳でもないし、片方が死ぬ訳でもない。
こんなことで部活にまで支障が出るのはまずい。とりあえず早く話をしよう。
先に出た侑を追いかけるように、急いで家を出た。
─────
───
いつもの通学路。いつもの風景。でも、ただ1つ違うことがあった。
俺の特等席だった侑の隣に、他の誰かがいること。
それは、侑より背が高い、爽やかな男だ。
一瞬でわかった。
あの男こそ、 侑の心を射止めたやつだと。
頬を少しだけ赤らめ、優しい瞳で見つめる侑。それにあの男も笑って返す。それにまた、侑は頬を赤くする。
恋をするやつの瞳を、今までごまんと見てきた。
本人は気づいているのか知らないが、それが今の侑だ。
侑が居ない登校も、隣にお互いが居ないのも全部初めてのことだった。
(あんなやつより、俺の方が絶対ええのに)
侑がどこかに行ってしまうのがたまらなく寂しい。
侑のことで知らないことがあるのも嫌だ。
今思えば、これは単なる兄弟愛ではなかったのかもしれない。
今この瞬間、気づいてしまった。
俺は侑に恋をしていたんだ。
今までは、侑が隣にいるのが当たり前で、どこにも行かないと確信していた。
あるいは、俺だけを求め続ける侑を見て、勝手に手に入れた気になっていたのかもしれない。
(でもこんな気持ち、今更やんな)
侑には今、想い人がいる。仮に、元々侑が俺の事をそういう目で見ていたのなら、見込みはあったかも知れない。
(見事な失恋やな)
この先、侑はあいつと幸せになるのだろうか。
そんなことを考えるだけで、胸が締め付けられて苦しい。
分かっていても、この思考を止められる訳ではなくて、ぐるぐる、ぐるぐると永遠に考えてしまう。
気づけば、校門前まで来ていた。
侑とあと男の姿はどこにも見当たらなかった。
(ほんま最悪。こんな気持ち、気づかんければ良かったわ)
午前中は、朝練にも授業にも身が入らなかった。
無駄な思考だと分かっているのに、頭からどうしても離れない。
昼も友達と過ごす気分にはなれず、ひとりで屋上に行くことにした。
誰かいるのだろうか。賑やかな話し声が聞こえる。恐らく2人組。
楽しそうに話していると思ったら、急に静かになった。
そこから聞こえきたのは侑の声だった。
『俺でええなら付き合いましょ』
全身に力が入った。
侑がこのワードを言うのは、死んでも聞きたくなかった。
そのあと聞こえた、可愛いリップ音。
(もういやや)
この現実からも逃げるように、階段を駆け下りた。
コメント
7件
この話まじで好き🥰🥰治視点も最高すぎです❣️これから挽回とかできるんかな?侑も元々治のこと好きなんやし何とかなったりするんかな🤔💭めっちゃ続きが楽しみです😊
侑視点読み返して治視点のコレ見たら「ふぁ?!」って言っちゃったw😝 うわぁあぁ2人すれ違ってる?ねぇ…ていうかほんまにノベル上手すぎて尊敬😊🫶