テラーノベル
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第一話 ナッティが記憶を失う!!
その日も、ナッティはご機嫌だった。大好きなペロペロキャンディを両手で持ち、夢中で舐めながら歩いていた。あま~い砂糖の味に目を細め、足取りも軽い。周りで誰かが何をしていようと関係ない。世界はキャンディと自分だけ……少なくとも、普段ならそうだった。
だが、不幸は突然に訪れる。
「んふふ~♪ あまぁい♪」とキャンディをクルクル回していたナッティの頭上から――ガツンッ!!
大きな木の枝が、風に揺れて折れ、まるで彼を狙ったかのように直撃したのだ。
「……あれ?」
キャンディを落とすと同時に、ナッティはふらつき、その場に倒れこんだ。
◆ 記憶喪失のナッティ
数時間後。仲間たちが集まってきた。トゥーディーやカドルス、フリッピーまでもが心配そうにのぞき込む。
「ナッティ、大丈夫? いつもなら『キャンディは!? キャンディどこ!?』って叫ぶのに…」とカドルスが首をかしげる。
しかしナッティは、目を開けるとぼんやりと皆を見回した。
「……ここはどこ? えっと……僕、誰?」
一瞬にして、空気が凍った。ナッティが“普通”の声で喋ったのだ。あの甲高い、甘ったるい調子ではない。
「ま、まさか……記憶喪失!?」とトゥーディーが叫ぶ。
その通りだった。キャンディのことも、砂糖への狂おしい愛情も、過去のドタバタな事件も、何も覚えていなかったのだ。
代わりに現れたのは――落ち着いた、どこか真面目そうな性格の“新しいナッティ”だった。
◆ 普通の性格になったナッティ
日が経つにつれ、仲間たちはその変化に驚かされた。
以前なら、店のショーウィンドウに飴玉を見つければガラスを割って飛び込もうとしたナッティが、今は真剣に財布を持ち「お金を払わなきゃ」と言う。
宿題をサボっていたキッズたちには「勉強は大事だよ」と優しく諭し、散らかっていた公園のゴミまで片付ける始末。
「……なんか、すごくいい子になっちゃったね」カドルスがぽつり。
「う、うん……でもさ、ちょっと怖いよね。だってナッティだよ?」トゥーディーは落ち着かない。
仲間たちにとって、ナッティの存在は“暴走する甘党”であることが日常だった。その彼が常識的すぎる態度を取ることは、逆に不気味に思えたのだ。
◆ ナッティ自身の戸惑い
しかし一番戸惑っていたのは、本人だった。
「僕……みんなから“ナッティ”って呼ばれてるけど、本当にそれが僕? 何か大事なことを忘れてる気がするんだ……」
夜になると、窓に映る自分の顔をじっと見つめた。何かが足りない。何かを失っている。その感覚だけが心に残っていた。
そんなある夜、散歩の途中で、道端に転がるペロペロキャンディを見つけた。
「これは……?」
無意識に手を伸ばし、舐めてみる。
その瞬間――頭の奥でチカッと光が弾けたような感覚が走った。
甘い。あまりに甘い。胸の奥が熱くなる。なぜだかわからないが、涙があふれそうになった。
「……な、なにこれ。どうして、こんなに……大切に思えるんだ?」
◆ 記憶のかけら
それから数日、ナッティは何かに導かれるようにキャンディを集め始めた。
最初は「味を確かめたい」という理性的な理由をつけていたが、次第に理性が崩れ、眠れぬ夜にこっそり砂糖菓子を口に運ぶようになった。
そして――
「……っ! 思い出した……! 僕は……僕は……!」
断片的に、過去の映像が脳裏に流れ込む。
キャンディの山に飛び込む自分。砂糖に溺れるように笑い転げる自分。周囲を困らせても気にせず、ただ甘さを追いかける日々。
それは確かに自分だった。けれど今の“普通の自分”とも矛盾していた。
「僕は……本当は、どっちなんだ……?」
◆ 仲間たちの思い
カドルスたちは心配して集まり、真剣に話し合った。
「ナッティがキャンディ中毒に戻ったら、また大変なことになるかもしれない……でも、今のナッティはナッティじゃない気もするんだ」
「つまり……彼が本当に幸せになれる道を探さなきゃってことか」
皆は一つの結論にたどりついた。
“ナッティが自分で選ぶ”――過去に戻るのか、新しい自分で生きるのか。
◆ 運命の選択
仲間たちに見守られる中、ナッティは最後のペロペロキャンディを見つめた。
「これを舐めれば……完全に思い出すんだろうな」
指先が震える。胸の奥で、甘さへの渇望と、普通でいたい理性がぶつかり合う。
仲間たちは何も言わず、ただ静かに見守っていた。
――そして、ナッティは。
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