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文化祭準備が始まって二週間。
二年C組は、 さらにまとまりを失っていた。
放課後の教室。
白石ひかりは一人、 シフト表を書き直していた。
何度目かも分からない修正。
「また変更……?」
小さくため息が漏れる。
“バイト入った”
“だるい”
“その日遊ぶ”
そんな理由で、 担当表は何度も崩れていく。
今朝の教室では、 女子グループがスマホを見ながら笑っていた。
「え、これ超おもろい」
「待って、神崎じゃね?」
その言葉に、 白石は顔を上げる。
スマホ画面には、 授業中に寝ている神崎の盗撮写真。
『今日も終わってる問題児w』
そんな文字が加工されていた。
周囲は笑っている。
でも、 白石だけは笑えなかった。
「……それ、やめなよ」
空気が止まる。
女子たちは少し気まずそうに目を逸らした。
「冗談じゃん」
「別に本人に送るわけじゃないし」
白石は何も言い返せない。
するとその時、 教室後ろの扉が開いた。
神崎だった。
一瞬で空気が変わる。
女子たちは慌ててスマホを伏せた。
神崎はそれを見て、 小さく笑う。
「なに、その顔」
誰も答えない。
神崎はゆっくり教室へ入り、 自分の席に座る。
それから、 女子たちの机をちらっと見た。
「隠さなくていいよ」
「慣れてるし」
軽い口調だった。
でもその言葉に、 白石の胸が少し痛む。
神崎は鞄を机へ置くと、 そのまま窓の外を見る。
夕方の空。
グラウンドでは、 運動部の声が響いていた。
教室だけが静かだった。
翌日。
文化祭準備のため、 放課後に資材運びが行われていた。
だが集まったのは、 白石と数人だけ。
男子たちは途中で消え、 女子たちも「疲れた」と座り込んでいる。
段ボールを抱えながら、 白石は無理やり笑った。
「あと少しだから頑張ろ!」
返事は薄い。
その時。
廊下の奥から、 ガラガラと大きな音が近づいてきた。
見ると、 大量の木材を一人で運ぶ神崎だった。
「……え?」
白石は目を丸くする。
神崎は汗を拭きながら、 無愛想に言った。
「邪魔」
男子たちは驚いた顔をする。
「お前こういうのやるんだ」
「別に」
神崎は木材を床に置いた。
「進まねぇから運んだだけ」
そう言ってまた廊下へ戻っていく。
その背中を見ながら、 白石は少しだけ違和感を覚える。
神崎は、 本当に“全部どうでもいい人”には見えなかった。
数日後。
白石は夜遅くまで学校に残っていた。
装飾作業が終わらない。
教室には彼女しかいないと思っていた。
しかし、 後ろからライターの音が聞こえた。
振り向くと、 窓際で神崎が座っていた。
「うわ、びっくりした……」
神崎はコンビニのパンを食べながら言う。
「白石こそ帰んねぇの?」
「まだ終わってないから」
神崎は少し黙る。
それから、 ぽつりと言った。
「お前さ」
「なんでそこまで頑張れんの」
白石はハサミを動かしながら答える。
「ちゃんと成功させたいから」
「なんで?」
「え?」
「このクラスで青春したいとか?」
白石は少し笑った。
「……ダメ?」
神崎は答えない。
窓の外を見ながら、 小さく呟く。
「別に」
「ただ、お前見てると疲れんだよ」
「なんで?」
神崎は白石を見る。
その目は、 いつものふざけた感じじゃなかった。
「無理して笑ってるから」
白石の手が止まる。
神崎は続けた。
「お前、ずっと“良い子”やってるだろ」
「皆に嫌われないように」
教室が静まり返る。
白石は目を逸らした。
図星だった。
神崎は小さく笑う。
「やっぱそうだ」
「……違う」
「じゃあ、なんでそんな必死なの」
白石は答えられない。
沈黙。
その空気を壊すように、 神崎は立ち上がった。
「まぁいいや」
教室を出ようとする。
その時、 白石は思わず聞いた。
「神崎くんってさ」
「本当はクラス嫌いじゃないでしょ」
神崎の足が止まる。
しばらく沈黙した後、 彼は小さく笑った。
「嫌いだよ」
「でも――」
振り返らないまま続ける。
「どうせ毎日いるなら、少しくらいマシでいてほしいとは思う」
それだけ言って、 神崎は廊下の暗闇へ消えていった。
白石は一人、 静かな教室に残される。
机の上には、 神崎が途中まで組み立てた装飾。
雑なのに、 妙に丁寧だった。