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桃下結衣
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星キラリ

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ムメイ
283
星乃宮学園の秋。
校内には、少しずつ文化祭の準備の空気が広がっていた。
廊下には飾り付けの紙。
教室には段ボールや絵の具。
いつもより人の感情がたくさん動く時期。
私――紬にとっては、少しだけ苦手な季節だった。
楽しそうな黄色。
焦った赤色。
不安そうな青色。
たくさんの色が、いつもより強く見えるから。
「紬、大丈夫?」
隣から声がする。
天音。
私の大好きな人。
「……うん」
小さく答える。
天音は私の顔を見て、少しだけ首を傾げた。
「無理してない?」
「……」
やっぱり分かってしまう。
天音は、私が隠そうとしたことまで見つけてしまう。
「……少しだけ」
正直に言うと、天音は優しく笑った。
「言えたね♡」
「……?」
「前だったら、絶対『大丈夫』って言ってたでしょ♡」
言われて気づく。
確かに。
前の私なら、迷惑をかけないように笑っていた。
でも今は。
天音には、少しだけ本当のことを言える。
「……天音だから」
「え?」
「……言える」
その瞬間。
天音の周りの桜色が、ふわっと明るくなる。
「……紬」
「?」
「今の言葉、今日一番嬉しいっ!♡」
「……」
また顔が熱くなる。
⸻
文化祭の準備中。
私のクラスは喫茶店をすることになった。
私は人前に立つ仕事はできないから、飾り付け担当。
それでも、周りの子たちは優しくしてくれる。
「紬ちゃん、そのリボンかわいい!」
「え……?」
「小さいから、こういうふわふわしたの似合うよね~!」
「……ぁ」
返事が出ない。
でも嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
「紬ちゃんって本当にかわいいよね」
「……」
どう返せばいいか分からず固まっていると。
「はいはい、そのくらいで♡」
聞き慣れた声。
天音だった。
笑顔。
いつもの明るい笑顔。
でも。
少しだけ。
桜色に混ざって、薄い赤色が見える。
……嫉妬。
「天音?」
「ん?♡」
「……怒ってる?」
「え!?」
天音が驚く。
「いやいや、怒ってないよ〜…」
でも、目を逸らした。
分かる。
天音は嘘が苦手だ。
「……少しだけ」
「……」
「…紬がかわいいって言われるのは嬉しい」
天音は私を見る。
「だって、紬が褒められると私まで嬉しいから…」
「でも、」
少しだけ頬を膨らませる。
「私の知らないところで、紬のかわいいところ見つけられてるの、ちょっと悔しい…」
胸がきゅっとなる。
天音はいつも。
私を大切にしてくれる。
だから。
私も。
少しだけ勇気を出したい。
「……天音」
「なぁに?」
私は天音の袖をつまむ。
「……一番は」
「?」
「……天音」
一瞬。
周りの音が消えた気がした。
天音が固まる。
「……紬」
「……」
「それ……」
「反則じゃないっ…!?♡」
「……?」
天音は顔を赤くして笑った。
「そんなかわいいこと言われたら、嫉妬してた私がばかみたいじゃぁん…」
⸻
放課後。
寮へ戻る道。
今日はいつもより疲れた。
人が多かったから。
でも。
不思議と、嫌な疲れではなかった。
部屋に入る。
天音がドアを閉める。
「紬」
「?」
「今日、頑張ったねぇ」
「……」
「みんなの前でちゃんと話してたし」
「……少しだけ」
「その少しがすごいんだよ!」
天音は笑う。
「私、紬のそういうところ大好き♡」
胸が温かくなる。
「……天音」
「ん?」
「……私も」
言葉が詰まる。
でも、伝えたい。
「……天音が、好き」
天音は優しく笑った。
「うん!」
「知ってる♡」
「でも、何回でも聞きたいな♡」
「……」
「だって、紬が頑張って言ってくれる言葉、全部宝物だから!」
私は少しだけ笑った。
昔は。
人の気持ちが分かることが嫌だった。
でも今は。
この力があったから、分かることもある。
天音の優しさ。
天音の愛情。
天音が、どれだけ私を大切に思ってくれているか。
「……天音」
「ん?♡」
「……私」
言葉が詰まる。
でも、今日は少しだけ頑張りたい。
「……もっと、天音の隣にいてもいい人になりたい」
天音は少し驚いた顔をした。
「紬……?」
「いつも、天音が私を助けてくれるから……」
「私も……天音が嬉しくなること、したい」
小さな声。
でも、今までの紬なら言えなかった言葉。
天音は優しく笑う。
「紬はもう、十分すぎるくらい私を幸せにしてるよ?」
「……」
「だってさ、」
天音は紬の手をそっと握る。
「紬が私を頼ってくれること」
「私のことを好きって言ってくれること」
「それだけで、私は毎日幸せなんだよ♡」
紬は少しだけ目を伏せる。
「……ほんと?」
「ほんと♡」
「世界で一番かわいい恋人が、私のことを好きでいてくれるんだもん♡」
「……」
「それ以上の幸せ、なかなかないよ!」
紬の顔に、小さな笑顔が浮かぶ。
天音の桜色が、また優しく輝いた。
コメント
1件
リオンです。第2話、拝読しました。 文化祭準備の喧騒の中で、天音さんがほのかに嫉妬する場面、すごく良かったです。あの「私の知らないところで紬のかわいいところ見つけられるの、悔しい」というセリフに、天音さんの独占欲と愛情の両方がぎゅっと詰まっていて、胸がきゅっとしました。それに対する紬さんの「一番は天音」という返しも、前に進んだ勇気が感じられてじんわりと温かくなりました。 感情の色が可視化される設定も、天音さんの桜色がふわっと明るくなる瞬間や、嫉妬の薄い赤色が混ざる繊細な描写がとても効果的で、世界観にすっと入り込めました。次も楽しみにしていますね。