【友人の付き人】など、よく口からデマカセを言葉に出来たものだ。
地に額を擦りつけ僕は考えていた。
あの女性のプライドを傷つけず、その場から去る為に吐いた言葉に嫌悪を感じずにはいられなかった。
その嫌悪のせいか、絶望とやるせなさからの涙は乾いていた。
もしくは、僕が認知していない程に時間が経過していたのか
けれど今はそんな事など、大した問題ではない。
記憶を失っているこの現状の方が問題であるからだ。
転んだ時についたであろう、草木や土や傷や乱れただろう髪に汚れた服等もどうでも良かった。
起き上がる理由もなく、地面に額を当てて考える。
いや、考えたところで何一つ思い出すことはなく、記憶は女性とのソレからだ。
これからどうするかなど、ヒントは地面になど落ちてはいない…。
情報が必要だ…
そう一つの″今出来ること″に思考が辿り着くと僕は眼をくわっと開いた。
眼を開けた事による現状のいくつかが視界に入った。
姿に似つかわしくないこの無様なポーズに終わりを告げ、おぼつかない足で立ち上がる。
子供が砂場で泥だらけになったような、この姿。
この身体の主が大人ならば、不審者でしかない。
僕は慌ててガラスか窓か水溜まりをキョロキョロと探した。
まず、容姿の確認をしなくてはいけない。
そして、わからないなりにその姿に合った振る舞いをしなくてはいけない。
辺りを見回しても目に入るのは、闇と木々のみ。
やはり、先ほどいた館まで戻るしか姿を確認するのは無理なようだ…
頭や髪についてるだろう草木を軽くはたき落とすと、少し痛む足を庇うようにして歩き出す。
背中を押すかのように夜風は僕を追い立てた。
館まで来ると辺りに人の影がないか、目視で確認した。
ここでこの身体の主の知人や先程の女性に出会せばまずい事態になる事が予想できた僕は鋭く確認する。
「よし…」
館で賑わっているだろう声がする方とは逆の方に足を向け、鏡を探す。
すると、狭い通路の花瓶が置かれてる上に鏡があったのだ。
僕は早く確かめたいとばかりに走って壁にかかってある鏡を覗き込んだ。
鏡の中に居たのは、整った顔立ちの青年だった。
予想に反して、血の気のない白い肌と血の気のない唇の色。
キリッと上がった眉に二重の…
属に言う、イケメンというものそのものだったのだ。
もはやそれは整いすぎて人ではない造形物に近いと言っても過言ではなかったのだ。
先程の女性があのようになるのが、まるで当たり前のような、妙に納得出来るような…。
だが、顔立ちとは違い髪はぐしゃぐしゃの極みであった。
転んでそうなったのか、もとよりくせ毛なのか、よく確認することもせずに僕は目線を狭い廊下の先に向けた。
なぜなら、その先から男2人の潜むような声がしたからだ。
誰が話している事など、今は気になる程の余裕もなかったはずなのに耳に届いてきた言葉が僕の興味をそそった。
静かに静かに足音を立てずに気配を悟られないように、声が鮮明になるギリギリまで忍び寄った。
男2人は闇に潜むように妖しげに言葉を交わす。
僕という者に気づかずに。
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