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第97話 〚選ぶ覚悟〛(澪×海翔)
放課後の校舎は、
夏休み前の空気が残っていて、静かだった。
屋上へ続く階段を上る足音が、
二人分、重なる。
「……澪」
海翔が、少しだけためらってから口を開いた。
「最近さ、無理してない?」
澪は一瞬、足を止めた。
でもすぐに、振り返らずに答える。
「無理は、してないよ」
嘘じゃない声だった。
◆
屋上に出ると、
夕方の風が二人の間を通り抜けた。
澪は手すりに手を置いて、
空を見上げる。
「ね、海翔」
「うん」
「私ね……前と、違う」
海翔は、何も言わずに頷いた。
◆
「昔は」
澪はゆっくり言葉を選ぶ。
「予知に流されてた。
見えた未来が正解だと思ってた」
海翔は、初めて聞く本音に、息を止める。
「でも今は」
澪は胸に手を当てた。
「心臓が痛くなる未来がある」
「それは、選んじゃいけない未来だって分かる」
◆
海翔は、思わず一歩近づいた。
「……それって」
「怖いよ」
澪は、正直に言った。
「未来が見えても、
自分で選ばなきゃいけないの」
少しだけ、声が震える。
◆
「でもね」
澪は海翔を見る。
「選びたいって思えるようになった」
「誰かに守られる未来じゃなくて」
「一緒に歩く未来を」
◆
海翔の胸が、強く鳴った。
(ああ……)
(そうか)
守る覚悟じゃ、足りなかった。
◆
「澪」
海翔は、はっきり言った。
「俺さ」
「もう、守る側だけでいない」
澪が、驚いたように目を瞬かせる。
「選ぶなら、一緒に選びたい」
「間違えても、遠回りしても」
「隣にいる」
◆
沈黙。
風の音だけが、二人を包む。
澪の目が、少し潤んだ。
「……それ、ずるい」
小さく笑って、
でも嬉しそうに言う。
◆
澪は、一歩踏み出した。
ほんの少し、距離が縮まる。
触れない。
でも、もう遠くない。
「じゃあ」
澪は言った。
「私、選ぶね」
「うん」
「未来も」
「人も」
◆
その瞬間。
澪の胸が、
きゅっと、痛んだ。
でもそれは、
拒絶じゃない。
確かに進むための、痛みだった。
澪は、迷わず海翔を見る。
「――この未来は、選ぶ」
海翔は、静かに頷いた。
「俺も」
夕焼けの中、
二人は同じ方向を見て立っていた。