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side 莉乃

誠とキスをして一緒に眠った翌週、仕事が始まれば、いつも通り秘書と副社長という関係に戻った。

あれから数日、何事もなかったかのように仕事は進み、誠は今までと何も変わらなくて、私は拍子抜けしてしまう。

やはり、誠にとっては女の人を甘やかすことなど日常茶飯事なのかと少し落ち込むも、今は証拠もつかんだのだから仕事に集中しなければと、思い直した。

そんな感じで毎日を忙しく過ごしていると、誠が会議から戻ってきて、驚いたように私を見る。

「水川さん、まだいたのか?」

「はい? え?」

その問いの意味がわからず時計を見れば、とっくに二十時を回っていた。

「もう上がって」

そう言われるも、時間も気になるが、もう少しだけ仕事を進めたくて私は否定的な言葉を述べる。

「あと少しだけ」

誠の方を見ることなく答えれば、「莉乃」と低い声が聞こえて、私は手を止めた。


「でも……」

なおも食い下がれば、誠が私の方へと歩いてくるのがわかった。そして、じっと見つめられる。

「上司命令。今すぐ上がれ。あまり顔色がよくない」

そう言うと、誠は私の頬に触れて、目元にもそっと触れた。

ドキドキとしながら私は「わかりました」と答えて立ち上がる。すると、急に目の前が白くなる。

「莉乃、大丈夫か?」

次に視界が戻ったときには、私は誠の腕に支えられており、心配そうな瞳が覗き込んでいた。

「はい」

そう答えたものの、誠は私をもう一度椅子に座らせる。

「少し待ってて。送っていくから」

「ごめんなさい」

忙しいのに申し訳なくて謝れば、誠は柔らかな笑みを浮かべた。

「頼ってほしいから、気にするな」

そう言いながら私の頬をなでると、誠は自分の席へと戻っていった。

そのとき、ドアが閉まる音が聞こえた気がしたが、気のせいだろうと息を吐いた。


その後、誠に家まで送ってもらったが、誠が帰ってしまうことが寂しく感じてしまう。

ふたりの空間で誠の体温を感じてしまえば、切なくなる。

しかし、ただでさえこうして迷惑をかけているのだ。

これ以上、彼に負担をかけるわけにはいかない。

運転席にいる誠に小さく手を振り、後ろ髪を引かれる思いで私はマンションへと戻った。


Side 誠

顔色の悪い莉乃を家まで送り、わざとらしいほど明るく笑顔を作る彼女を抱きしめたい気持ちをなんとか抑える。

今日は眠れるだろうか?

そんなことを思うも、今日は俺には予定があった。

「ゆっくり眠るんだぞ。何かあったらいつでも連絡して」

安心だけでもさせたくて莉乃にそう伝えれば、少しはにかんでうなずいた。

後ろ髪を引かれる思いで、莉乃がマンションへと入ったのを見送ると、俺は車を出した。

家に車を置き、着替えると、莉乃たちと初めて会った近くのバーへと急いで向かう。

今日も相変わらずの混み具合の中だったが、慣れた声が俺を呼ぶ。

「誠、こっち」

「弘樹、悪いな」

奥まった4人掛けのテーブルに並んで座る二人を見つけて、俺も弘樹の前に腰を下ろす。

「誠さん、何にします?」

なじみの店員の言葉に、俺は「悪い、すぐ帰るから」と謝罪する。

申し訳なく伝えれば、笑顔で店員は水だけを置いて戻っていった。

「香織ちゃん、忙しいのにごめん」

「いえ、もっと早く時間を作りたかったんですが、こちらこそすみません」

申し訳なさそうな彼女に、俺は小さく首を振った。

「うまく行ってそうで何よりだよ。貴重な時間を悪いな。手短に話したら退散するから」

そう伝えれば、香織ちゃんは少し顔を赤くしたが、すぐに表情を戻した。

「あの、莉乃のことって聞いたんですが」

大切な友人に何かあったのではないかと心配そうな彼女に、俺も緊張気味に言葉を発した。

「莉乃にストーカーしてた男について教えてほしい」

単刀直入に聞けば、香織ちゃんはじっと俺を見据えた。

「どこまで莉乃から聞いてますか?」

とてもデリケートな話だけに、香織ちゃんが俺を信用していいか確認するのは当然だ。

「たぶん、大体は聞いていると思う。でも、そいつの名前とかは聞いていない」

その答えに彼女は少し思案する表情を浮かべた後、伏せていた瞳を上げると口を開いた。


「名前は溝口総一郎。大手不動産会社の息子です」

「社長の息子……」

俺は、自分と同じ肩書をただ呟いていた。

「かなり権力を持った家で、いろいろ手を回したんだと思います。ほとんどニュースにもならなかったから」

ギュッと唇を噛んで、香織ちゃんが悔しそうな顔をする。

「莉乃自身も、少ししてからは家族や友人に心配をかけたくなかったんでしょうね。気丈に振る舞ってました。でも、莉乃は心も身体もズタズタだった。自分をなんとか保つことだけで、一所懸命だったと思います」

「香織ちゃん、ありがとう」

その時の莉乃の様子を思い出したのか、今にも泣きそうな彼女にお礼を言って立ち上がろうとしたとき、彼女が俺を呼ぶ。

「誠さん!」

「ん?」

何事かと俺は香織ちゃんに視線を向けた。

「信用していいんですよね? 莉乃がその話をしたってことは、誠さんを信用したんだと思います。でも、もし誠さんが踏み込むつもりがないなら、今すぐ手を引いてください」

香織ちゃんの真剣な瞳に、彼女の言いたいことが嫌というほどわかった。

元カレに苦しめられ、軽薄でお金を持っている男を信用していなかった莉乃。

まったく同じ立場にある俺が、適当な気持ちで介入できる話ではない。

これ以上莉乃を傷つける男かどうかを、香織ちゃんに問われていることがわかる。

「大丈夫、信用して」

信じてほしくて、精一杯真剣な瞳で彼女に俺は頭を下げた。

そんな俺を見て、香織ちゃんは小さく息を吐いた。

「わかりました。最近の莉乃、情緒安定してないですよね?」

俺の覚悟を理解してくれたのか、彼女は話を続けた。

「ああ」

そう、この二年、とくに深く関わってはいなかったが、これほど不安げなことはなかったように思う。

「もうすぐ出てくるんです」

「え?」

その言葉に口をはさんだのは弘樹だった。

「奴が?」

俺が尋ねれば、香織ちゃんが悔しそうに顔を歪める。

「刑も思ったより軽くて、模範囚ならばそろそろ。だから莉乃はここ最近ずっと外に出るのも控えていたし、怯えていました。二人に会った日は、『まだ大丈夫だよね』と話していた日だったんです」

静かにうつむいた彼女の肩を、弘樹がそっと抱き寄せた。

「香織ちゃん、ありがとう」

そう伝えて俺はスマホに手を伸ばした。莉乃は眠っただろうか?

今の話を聞いてしまえば、さらに莉乃が不安で眠れない日を送っていないか心配でしかない。

眠っていれば返事はないだろうと、端的にメッセージを送る。

【寝てる? 今から行こうか?】

眠っていれば既読にならないだろうし、もし起きていても大丈夫ならそう返ってくるだろう。

すぐに既読がついたことに、俺は「やはり眠ってなかった」とため息が漏れる。

そしてすぐに戻ってきたメッセージに、俺は立ち上がった。

【お願いします】

「誠さん」

そんな俺に香織ちゃんが呼ぶ。

「莉乃のこと、お願いします。私も近いうちに会うようにします」

「ああ」

少し彼女に微笑んで見せれば、安堵したように俺に頭を下げる。

「こちらこそ、話してくれてありがとう」

そう伝えて、俺は急いで店を出て車を取りに帰ると、莉乃の家に向かった。

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