最近どハマりしてる曲です。
如月ゆうくん人外。
Kisaragi You side -
くにおは、身寄りのない
僕を引き取ってくれた。
爬虫類のような硬い鱗で覆われた
こんな身体も、すべて愛してくれると言った。
くにおはヒーローなのに、
僕を匿ってると世間に知られたら
どうなるかもわからないのに、
それでも危険をかえりみず、
傍にいると誓ってくれた。
そんな優しさが嬉しくて嬉しくて。
でも、それと同じくらい、
苦しくて。
◇
「もし、俺がゆうさんを匿ってるってバレても、
俺はゆうさんと一緒に、どこまでも逃げ続けるよ」
くにおはそう言って笑ったけど、
僕は何も言えなかった。
きっと、不安そうな僕を安心させようと
してくれているんだと思う。
でも、僕には逆効果で、
その優しさがむしろ辛い。
近くのネクタイに手を伸ばしながらそう思った。
長く鋭く尖った爪ではネクタイも締めて
あげられないので、そのままくにおに渡す。
「…なるべく怪我しないで帰ってきてね」
渡す際、そう言って小さく微笑むと、
くにおも嬉しそうに笑った。
「うん!じゃあいってきます!」
「いってらっしゃい」
くにおの姿が見えなくなるまで、
僕はずっと手を振る。
そして扉が完全に閉まるのを確認して
から、僕はリビングに戻った。
それからテレビの電源を入れ、
ひとつの番組をつける。
人間の子供がよく見るような
悪をやっつけるヒーロー戦隊のアニメ。
ただ怪人を倒して、世界の平和を守る、
そんなドラマチックの一欠片もないアニメだけど、
僕はそこが好き。
綺麗事だけを並べた意味不なものより、
何倍も価値があると思っている。
ヒーローといえば、くにおは
アニメが終わった頃に帰ってくる。
玄関の扉の開く音が聞こえて、
いつもみたいに玄関へ向かい、
「おかえり」
って言えば、
「ただいま!」
って嬉しそうな声が返ってくる。
僕にとっては、それだけで幸せで、
それは、僕にとっての天国で。
夕食の時間になれば、
他愛のない話をして、
やることが全部終わったら、
ふたりで一緒に眠って。
「最近遅いね。やっぱり大変?」
「うーん、まぁ…
でも俺はゆうさんがいるから、大丈夫だよ」
そう言うと、くにおは正面に来て
僕を抱きしめるようにして眠る。
これがくにおなりの甘え方
なんだって、前に教えてくれた。
ヒーローのときのくにおは
かっこよくて好きだけど、
こうやって、僕の前でだけ
弱くなってくれるくにおも好き。
僕もくにおの腕の中で温もりを感じながら
眠って、明日が来るのを待つ。
「………」
でも、
確かに幸せだけど、
やっぱり夜は少し寂しい。
真っ暗で静かで声も発せない夜は、
いつまでこうしていられるんだろう、
って考えてしまうから。
◇
怪人に幸せが訪れるわけがない。
訪れたところで、それが
永遠に続くはずがない。
ある日の午後、
夕食を食べ終わった後、使ったお皿を
運びながら、ぼんやりとそう考えていた。
くにおにこれ以上の迷惑をかけるわけにはいかない。
自分以外の誰かを守りたいって思う、
そんな素敵な人なのに、
僕のことを大切にしてくれる、
かけがえのない人なのに。
そもそも僕はここにいていいのか、
なんて考えてしまうときだってある。
だってこんなに尽くしてくれるくにおに対して、
僕はお風呂を沸かしておくぐらいしかできることないし。
ネクタイも締めてあげられなければ、
一緒に戦ってもあげられない。
ただ、慰めの言葉しか送ってあげられない。
それに、何より…
「ぅあっ…!?」
そんなことを考えたとき、
ふと脚が床に突っかかった。
その衝動で、手からお皿が離れる。
まずい、と思った頃には遅くて、
お皿はパリンと音を立てて粉々に割れた。
「あ……」
どうしよう、どうしよう。
遠くから、くにおの
走ってくる音が聞こえる。
脚が動かない。
また迷惑をかけてしまう。
今度こそ邪魔だって言われてしまう。
「ゆうさん!!」
くにおがリビングから駆けつけて来た。
混乱している僕の傍に駆け寄り、
怪我がないかを探し始める。
決して、邪魔なんて言いはしなかった。
…馬鹿だなぁ。
可笑しさを通り越して泣きたくなってくる。
怪人は、こんなことぐらいじゃ
怪我をしないって言っているのに。
風邪を引くことしかできないんだってば。
なのになんで、くにおは、
こんなときまで優しいの。
「…ごめんね、くにお。その、お皿…」
「全然いいよそんなの!それより、
ゆうさんが怪我してなくてよかった」
そう安堵するように笑うくにお。
「破片拾うけど、
ゆうさんは危ないから離れてて」
「あ、えっと…うん」
言われた通り、僕は辿々しい脚で、
後ろに数歩引き下がる。
くにおが落ちた破片を片付ける間、
僕は何もできず、見つめて立ち尽くしていた。
これから死ぬまで、くにおの優しさに甘えて
生きていかなきゃいけないのかな、とか、
僕って本当に、
どこまでも迷惑な子だな、とか。
それぐらいしか、考えていられなかった。
◇
くにおは、本当に優しい人だから、
僕なんかが傍にいちゃいけない。
くにおは、僕に幸せになってほしいなんて
思ってるらしいけど僕自身はそうも願わない。
ずっとくにおに甘えていれば、僕は幸せでも、
その分くにおの首を絞めていってしまう。
だったらその前に、僕は
くにおから離れなければいけない。
僕という檻から解放しなければいけない。
くにおが、
くにおが僕なんか忘れて、
幸せに暮らせるようにするためには…
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