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「はあああああああ!!!!!」
ガーディスの叫びと共に辺り一帯に強烈な打撃音と衝撃波が響き渡っている。ジャイアントオーク・イクシードの巨体に目にも止まらぬ速さで打撃を打ち続けていた。
対するジャイアントオーク・イクシードもノーガードでガーディスに拳を放ち続けている。
巨大でかつ鋼鉄の如き肉体によってジャイアントオーク・イクシードはガーディスの攻撃をその身で受けることが出来るが、一方彼は一撃でも受けてしまえば大ダメージを負ってしまう。
もちろんガーディスも極限まで鍛え抜かれた耐久力の高い肉体であり、通常のジャイアントオークであればその身で攻撃を受けることも可能であった。
だがしかし超越種となったジャイアントオークはまるで一撃一撃が街一つを消しかねない威力を誇っている。そんな攻撃を受けたらいくら頑丈な彼であってもタダでは済まない。
戦い始めの頃にその想定外の威力の攻撃による余波で吹き飛ばされてしまったが、直撃というわけではなかったのでダメージは少なく吹き飛ばされただけなのは幸いであった。
それ以降、彼はいつものように攻撃に重きを置いた戦闘スタイルではなく回避優先の戦闘をせざるを得なくなっていた。
このままではどちらのスタミナが先に尽きるかの我慢比べになってしまうが、種の限界を超えたとされる存在が相手では明らかにガーディスの方が分が悪かった。
しかしながらそのことはガーディス自身も何となく分かっていた。だからこそ早くこの状況を打開する手立てがないかと必死にジャイアントオーク・イクシードの様子を観察していた。
普段は脳筋と言われ頭を使うことが苦手な彼ではあるが戦いにおいては別人のように頭が切れる。まるで戦闘専用であるかの如く戦いの時だけ発揮される頭の回転の良さは本能に近いのかもしれない。
「くっ…!!」
間一髪でジャイアントオーク・イクシードの攻撃と衝撃波を回避し、一度距離を取った。このまま殴り続けるだけでの我慢比べでは確実に勝ち目がないと判断したのだ。何かしら別の手段を考えなければとガーディスは苦手だが必死に思考を巡らせる。
「ゴオォォォォォォォ!!!」
ジャイアントオーク・イクシードは一度距離を取ったガーディスに対して追撃はせず、その場に佇みまるで挑発するかのように彼に向かって雄叫びを上げていた。それが余裕の表れであることはガーディスにも理解できた。
「…ったく、そうだよな。結局俺に出来ることは力で押し切る事だけじゃねーか。俺らしくないことをしても勝てるわけないわな。まあ挑発に乗ったみたいで気に食わないが、やってやるよ!!」
ガーディスは何か吹っ切れたように笑みを浮かべて目の前に仁王立ちしているジャイアントオーク・イクシードを睨みつける。彼は先ほどまで必死に考えていた思考は全て放り出し、十八番であるシンプルでかつ分かりやすい『力技』という作戦を貫き通すことにした。
「身体強化、最大出力っ!!!!!!」
「Exスキル『限界突破(オーバードライブ)』発動っ!!!!!!」
「そして、ユニークスキル『鬼神化』発動っ!!!!!!」
彼は唯一使える魔法である身体強化魔法で自身の身体能力を最大限引き上げ、Exスキル『限界突破(オーバードライブ)』で自身の能力の最大値を一時的に大幅上昇させた。
一般的にこの二つの能力を併用して発動させるのは使用者の体に負担がかかりすぎるために使用後に倒れて体が再起不能までにボロボロになってしまう。文字通りの捨て身のコンボともいえるが彼に関しては何故か使用後、一時的に力が大幅に低下するだけで捨て身というほどではない。
しかしながら彼ならその程度で済むというだけで負担がないわけではない。
それらに加えて今回は彼の奥の手であるユニークスキル『鬼神化』を合わせて発動させた。普段なら先のコンボでも倒せなさそうだと判断した相手にのみ使う最終手段であり、体全体が一回り大きくなり全身から血のように赤いオーラが噴き出すようになる。
この状態の彼は軽く理性のねじが外れており、戦闘能力はもちろんのこと反射神経や瞬時の判断能力、自己治癒力までもが桁違いに上昇する。スキルの名前通りまるで鬼神のように成り果てるものである。
一度このスキルを発動させると相手を倒すまで止まらない暴走機関車のようになってしまうために周囲の被害はもちろんの事、自身の体のことまで顧みることなく戦ってしまうのだ。
つまりこれらの全ての能力を同時に使用するということは彼自身にとっても命取りになりかねないのだ。ガーディスもこれら3つを同時に発動させたことは今回が初めてであるため、自身の体がどうなってしまうかははっきりとは分からない。
だがこれだけは彼にもはっきり分かることがある。
この戦いに勝とうが負けようが彼は戦闘不能になるということだ。
「グランドマスターたちには申し訳ねぇが、少なくとも任された仕事だけは完璧にこなしてやるからよっ!」
ガーディスは大きく息を吸い込んで足に力を込める。
すると次の瞬間には彼の拳がジャイアントオーク・イクシードの腹部へとめり込んでいた。
「グフォッ!?」
突然の激痛と口から吹き出る大量の血液にジャイアントオーク・イクシードは驚きを隠せなかった。なんせ先ほどまで取るに足らない相手だと思っていた雑魚が急に自身にこれほどのダメージを与えるほどの攻撃を繰り出してきたのだから。
ジャイアントオーク・イクシードはすぐに反撃に移り、懐にいたガーディスに拳を炸裂させる。その攻撃は見事に直撃し、ガーディスは大きく吹き飛ばされる。先ほどまで致命的なダメージになりかねないと回避していた攻撃を彼はまともに受けてしまった。
しかし再び驚きの光景がそこにはあった。
吹き飛ばされたガーディスが軽やかな身のこなしで綺麗に着地を決めたのだ。
まるで効いていないかのように首を左右に傾けて音を鳴らしていた。
「……はっはっはっはっ!!!!!さあこれからが本番だ、超越種!!!!!!」
少し狂気じみた笑みを浮かべてガーディスは再びジャイアントオーク・イクシードへと向かって踏み出す。攻撃力もスピードも耐久力も先ほどまでとは比べ物にならないほどになっていたことにジャイアントオーク・イクシードも目の前の小さな存在を大きな脅威と認識し始めていた。
そうしてついにジャイアントオーク・イクシードはガーディスをついに同等の力を持つ存在であると認識し、魔力を全開放して本気で迎え撃つと決めた。先ほどまで以上にジャイアントオーク・イクシードの放つ圧が増加していった。
まるでこの世の終わりかのような二つの鬼の戦いが始まった。
街や他の人たちが戦っているところからかなり離れた場所で戦い始めたことが幸いとなり周囲の人的被害はあまりなかったが、周囲の地形を跡形もなく消し去るほどの超パワーの二人がぶつかり合う。
何分もの間、かなり離れたところで戦っていた他の冒険者のところまでもその衝撃波と地響きが伝わっていたほどの熾烈な戦いが行われていた。まるで特級の魔法でも撃ち合っているかのような衝撃が辺り一帯に響き渡るが、その正体は純粋な殴り合いである。
単純明快な彼らの力による戦いは他の人にとっては理解不能なレベルの戦闘になっていたのだ。
ガーディスの攻撃がジャイアントオーク・イクシードの肉を割き、着実にダメージを与えていく。一方でジャイアントオーク・イクシードの攻撃もガーディスを血だらけにするほどのダメージを与え続けていた。
互いに人並外れた回復力によって肉が断たれようが骨が折れようがすぐに再生して再び攻撃を繰り出している。完全に両者の力は拮抗していた。
「はああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
「グルルルララアアァァァ!!!!!!!」
両者の体はすでに血まみれになっており傷の治りも遅くなっていた。
もうどちらも体は限界をすでに超えていた。
今残っているのは気合、ただそれのみであった。
「ゴオオオオオオオオ!!!!!」
「ごっ!!!」
ジャイアントオーク・イクシードの強烈な一撃がすでにボロボロのガーディスの体へと打ち込まれる。もう着地に回すだけの力も残っていなかったためにガーディスは地面へと叩きつけられる。
もうすでに意識を保っていられるだけの力すらもなかった。
「……」
体のあちこちから血が流れ、肉が割けて骨も折れている。
もうどう見てもこれ以上戦うことは出来ない状態だ。
「……ま、だだ。っまだだ!!!!!」
体中から赤いオーラを噴き出しながらガーディスは立ち上がる。
もう彼は意識も消えかけており本当に気合だけでそこに立っていた。
「はああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガーディスは残った気力を全て出し切って再び目にも止まらぬ速さでジャイアントオーク・イクシードの懐へと飛び込んだ。もうすでにそこまでの力を出せる体ではなかったが彼の底知れない気合が奇跡かのようにそれを可能にした。
ガーディスと同じくもうボロボロで再生も間に合っていないジャイアントオーク・イクシードは今の状態でそのスピードに対応することが出来なかった。
「これで、終わりだああああああああああ!!!!!!!!!」
全身全霊を込めた拳をジャイアントオーク・イクシードの胴体へ向けて繰り出す。その拳はいとも容易くやつの体を貫いてその延長線上にあった空をも割った。
「ガッ…!」
ジャイアントオーク・イクシードはその胴体に大きな風穴を開けられ、その生命活動を停止させていった。ガーディスとの殴り合いで全ての力を消耗し切っていたためにすでにその大穴を再生するだけの力は残っていなかった。
そうして二つの鬼による戦いは決着を迎えた。
ガーディスは満足そうな力ない笑みを浮かべて天を仰ぎ見る。
そこには最後の一撃によって空には穴が空いたように雲が割けていた。
それを見た彼は気合によって繋ぎ止めていた意識がその穴に吸い込まれるかのようにふっと消えていった。