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第7章
均衡は、必ず崩れる
第32話:守れない距離
王都の朝は、静かすぎた。
前日までの喧騒が嘘のように、
鳥の声と風の音だけが街を包んでいる。
健は、その違和感に気づいていた。
(……静かすぎる)
「嫌な予感がするな」
リュシアも同じだった。
その直後――
鐘が鳴った。
一つ。
二つ。
三つ目で、
街の空気が凍りつく。
「融合災害発生!」
兵士の叫びが、
石畳を走る。
だが、報告内容は
これまでと決定的に違っていた。
「発生地点――
王都中央区画」
健の背中を、
冷たい汗が流れた。
(近すぎる……)
第33話:世界が拒む理由
中央区画は、
もはや“街”ではなかった。
建物と建物が溶け合い、
空と地面の境界が曖昧になっている。
人々は逃げ惑い、
兵士の統制は追いついていない。
エリナが、
低い声で言った。
「これは……
自然災害じゃない」
健は、拳を握る。
「誰かが、
わざと起こしてる」
エリナは頷いた。
「ええ。
しかも――」
視線を上げる。
「世界そのものが、
“あなたを拒絶する方向”に
傾いている」
健は、息を呑んだ。
(俺が、原因……?)
第34話:干渉の限界
健は走った。
倒壊しかけた建物の下から、
人を引きずり出す。
拳で、
世界の“ズレ”を叩く。
――止まる。
だが、
全ては救えない。
崩れ落ちる瓦礫。
悲鳴。
「くそ……!」
健の膝が、
震えた。
(足りない……)
融合を使えば、
全てを止められる。
だが――
《警告:世界反発率、上昇》
脳裏に浮かぶ、
見えない拒絶。
(使えば……
また、元に戻る)
健は、
拳を下ろした。
第35話:破壊者の仕事
その時――
中央区画の外縁で、
爆音が轟いた。
融合構造が、
強引に“切断”されていく。
「……あれは」
リュシアが目を見開く。
剣閃。
圧倒的な速度と精度。
「レオンだ」
彼は、
融合災害そのものを斬っていた。
建物ごと、
歪みの核を切り落とす。
被害は出る。
だが、
拡大は止まる。
健は、
歯を食いしばった。
(……あいつが、
汚れ役を全部)
第36話:選べない選択
健とレオンの視線が、
遠くで交差した。
言葉は、
いらなかった。
――分かっている。
守るためには、
壊さなければならない場所がある。
だが――
健は、
一歩前に出る。
「それでも……
俺は、守る側でやる」
自分に言い聞かせるように。
エリナが、
静かに呟いた。
「ええ。
だから均衡は――」
言葉を切る。
「必ず、崩れる」
第37話:監査官の決定
世界の裏側。
観測層。
ノクスの前に、
別の影が立っていた。
「監査官《ノクス》」
それは、
同型の存在。
「判断が、甘い」
ノクスは、
沈黙する。
「異物を許容すれば、
世界は歪む」
影が告げる。
「よって――
次は、我々が動く」
健の名が、
演算空間に浮かぶ。
――《処理対象・昇格》
ノクスは、
初めて微かな遅延を見せた。
第38話:前触れ
夜。
王都の被害は、
最小限に抑えられた。
だが――
健は、
胸の奥の重さを拭えない。
「……守れなかった」
リュシアが、
隣に立つ。
「それでも、
多くは救った」
健は、
首を振った。
「足りない」
空を見上げる。
そこに、
星はなかった。
(次は……
もっと大きい)
世界が、
動き始めている。
均衡は、
確実に――
崩壊へ向かっていた。
第7章・了