「君の名前は?」
「言いたくない。」
知らない人、しかも明るいモテそうな男の子。私が持っているトラウマの男の子達と何も変わらない。
「じゃ、じゃあ…自分の名前からイメージするものとか。それで呼ぶ。」
「…あまね。」
「あまね、ね。俺は…じゃあ、彗。彗星の彗。」
「…」
私の苗字の天ヶ瀬のあまと、名前の霖音のねをとって、あまね、だ。
「それでどうすればいいの?」
「…知らない。」
結構尖った言い方をしてしまう。
「その本、あまねの?」
「違う。さっき見つけた。」
「内容は?」
「殆どがなんて書いてあるのか読めなかった。」
私は彗に、本を手渡す。
「……………なにかのお伽話みたいな表紙なのに、中身は現実的…というか現実で起こってることと同じだ…」
「え!?ここどこ…」
「どこなの、ここは……」
モデルのような容姿の美少女と、真面目そうなメガネを掛けた女の子。
『全てそこの子たちに聞いて。』
「…えっと、あなた達ここの人…?」
「こんな変なところに人が住んでいるの…?」
「違うよ。同じように連れてこられたんだ。」
「へーっていうか!歩けないんだけど!」
「何かを踏みつけながら来るといいよ。この空間は歩けないから。」
思わず彗には本性を見せてしまったけど、とりあえず愛想よく。
「なるほどね〜。」
「ていうか、名前はなんなの?」
なんか真面目そうな割に不躾な感じ…
「あまね、って名乗ってるよ。」
「彗だよ。ここでは本名を言わないでいいんだ。」
「へ〜なら私は…明莉。明るい人間でいたいから。」
「私は…なんだろうな…真面目ちゃんとか?いやでも真面目じゃないからな…あ!不真面目なフーちゃん!楓でいいよ。」
「楓さんと明莉さん…ね。」
一度リピートしてから覚える癖があるのだ。
「さんなんてつけなくていいよ。」
「明莉とか楓でいいよ。」
「明莉、楓。覚えた。」
「うん。」
「自己紹介は終わりとして、どうすんの?帰れないよ?来たときの扉はいつの間にか消えちゃったし。」
「私は、ここの世界で生きていくのもいいなと思うけど。」
「私も、もう帰らなくてもいいかな。」
「私はペットを連れてきたいな。退屈してたら可愛そうでしょ?」
「楓は優しいんだね。」
「イケメン!私はそんな言葉じゃ騙されないぞ!!」
「え……ありがとう……?」
「彗はどうなのよ。」
「何が?」
「この世界。」
「居心地は良いなと思うよ。」
「ここにいたいとは思わないの?」
明莉…なんか変……?
「……わからない。なにが一番いいのか。」
「…なにそれ。」
「明莉?もういいじゃん。」
「…楓は気にならないの?」
「わからないならわからないんでしょ。」
「っ!!あ、わ、わかる!!帰りたくない…よ…」
このときの彗はなんだか無理しているような気がした。
「そうなんだ。」
「なんだここ!?」
「どこなんだ…ここは……まさか…異世界…?」
「それは神ってる。」
楓はそう異世界系が好きなのかもしれない。
「うお!?誰だ!?お前…等?」
「誰も知らないんだけど。」
「俺たちも初対面だよ。」
「私明莉。」
「私は楓。」
「俺は彗。」
「私は、あまね。」
「なに、本名?」
「じゃなくていいんだって。」
「じゃあ俺は、みこととかでいいよ。」
「俺は……れい。」
「みこととれいね。」
覚えたよって意味でニコリと微笑みかける。勿論本当の心は笑いたくないって言ってる。
「………俺、お前ら無理だわ。」
「っ…なんで?」
「気に入らねえんだよ。そうやって誰にでもいい顔しちゃって。自分のこと殺すやつ。」
「……そっか。」
私は本の表紙を静かに撫でた。昔は本が大好きだった。色んな本を読んではよく祖母に話していた。
目が見えない祖母は私が本を音読するとすごく嬉しそうに聞いてくれた。それがなにより嬉しかった。大嫌いな両親の暴力にも耐えられると思っていた。
「あまね?大丈夫?あんな言葉気にしなくていいよ。」
楓は、少し心配したように言う。
「あはは…」
『………揃った。』
謎の声が突然聞こえた。
それと同時に突然私達の前に一つの扉が出てきた。
「何…これ。」
「明莉、待って。触らないほうがいい。何があるかわからない。」
楓が明莉の手をそっと掴む。
「あ、確かに…」
明莉は手を素早く引っ込めた。
ガチャッ
ドアから出てきたのは一人の青年?少女?どちらかはわからないが、いた。
その子は恐ろしく美しかった。この世のものではない。それはすぐに分かった。
「君の名前は何なんだ?」
みことが聞く。
『僕に名前はない。』
僕ってことは男の子なのだろうか。
「じゃあさ!私達で名前つけようよ。なんて呼ぶか。」
「楓はなにか案があるの?」
「ないけどさ。逆に彗は無いの?」
「まず性別がわからないからな……」
『僕に性別はない。』
華奢な体。中性的な声。僕よび。何がなんだかわからない。
「じゃあ、中性的な名前がいいよね。」
「中性的?なにそれ。」
「中性的は、男女の中間みたいな意味で今はいいよ。」
「へー。あまねって頭いいんだ。」
「明莉は可愛いから大丈夫だよ。」
「え、やん、照れる。」
「なにそれ〜w」
「女子が盛り上がることも君の名前もどうでもいいけどさ、帰らせてくれない?疲れてるんだよね。」
みことがふと言った。
「…なんで、みこと帰りたいの?」
明莉はまたスイッチが入ったようにきいた。
「…疲れたから。」
「眠りたいってこと?」
「うん。目を覚ましたくない。」
…死にたいってことか。
『帰りたいの?じゃあ帰っていいよ。』
突然なにもないところに扉が出てきた。
『自殺したいならしてもいいけど、それでいいの?』
「どういうこと?」
『死にたくない人がここに集まっているんだから。それでも死にたいって言うの?』
「………」
『僕は適当に呼んで構わないから。』
「助けてあげるってなにをしてくれるの?」
『そうだね……いずれわかるよ。ところでさぁ!皆は帰りたくないんだよね?』
「うん。帰りたくない。」
『明莉ちゃんはなんで帰りたくないの?』
「帰りたくないの。それだけ。理由は言いたくない。」
『そ。あ、僕の呼び方ぐらいはなにか決めていたら?なんでもいいけど、なんて呼べば伝わるか困るでしょ?』
「確かに………シロ、とかどうかな。」
「めっちゃ犬みてー。」
『犬…??』
「犬じゃなくてさ、ここってさ、あるけど分かりづらい。って感じがして。それを色で例えると白なんじゃないかと思って。」
「なるほどね…。いいんじゃない?」
『シロ…ね。ありがとう。あまねちゃん。』
「うん…。」
これから始まるこのお話は不思議で、あるのに分かってもらえない私達の記録。
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