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第1章 第6話「はじまりの夏」
夏の陽射しが強さを増し、柳城高校野球部のグラウンドは熱気に包まれていた。
白いユニフォームに袖を通した選手たちが声を張り上げ、守備練習や走り込みに汗を流す。
グラウンド脇に設置されたテントの下では、マネージャーが冷たいお茶を用意していた。
「はい、しっかり水分とって!」
声をかけながらタオルを配るマネージャーの姿も、以前より活気に満ちている。
「今日はここからだ!」
朝の声出しで、城島監督がチーム全員を集める。
「抽選まであと一週間。お前たちはただの“参加者”になるのか、それとも“挑戦者”として大会に乗り込むのか。
その違いは今日の練習からしか生まれない。」
監督の言葉に、選手たちの目が一斉に輝きを増す。
キャッチャーマスクをつけた小早川は、田村先輩の球を受けながらも常に声を張り上げていた。
「ナイスボール! 次は低めで勝負しましょう!」
「ショート、もう半歩左寄りでお願いします!」
まだ1年生。それでもチーム全体に声をかけられるようになったのは、練習試合を経て監督から背中を押されたからだ。
練習の合間、田村が苦笑しながらつぶやく。
「お前、本当に1年かよ。……けど、悪くない。」
その言葉に啓介の頬は少し赤くなった。
練習が終わると、城島監督は必ず選手全員にトンボを持たせた。
「グラウンドは戦場だ。汚れたままでは戦えない。野球が強くなる前に、人として強くなれ。」
荒れていたグラウンドは今、夕日に照らされて輝いている。
整備を終えた選手たちの顔も、かつてのどんよりとした表情ではなかった。
その日の最後、監督は静かに選手たちへ告げる。
「この夏、いきなり甲子園は難しいだろう。だが、“一歩”を踏み出せる大会にしよう。
お前たちがどれだけ変われるか……それを俺は見たい。」
啓介は汗を拭きながら、心の奥で強く誓った。
(絶対に、ここから始めてやる。俺の夏は、まだ始まったばかりなんだ。)
その瞳には、未来の柳城を背負う者の輝きが宿っていた。