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◻︎これから先
それから数日後。同僚だった後輩の野崎百合からLINEが届いた。
《愛美先輩、お元気ですか?課長と離婚されたと聞いてびっくりしましたが、課長が課内の若い子と不倫してたという理由での離婚と聞いて、そっちの方にまたびっくりでした。その話はあっというまに会社中に広がって、課長は転籍になるそうです。あの浮気相手は先週退職しましたよ。さすがに会社には、いられなくなったんでしょう。課長はなんだか体調が悪いとかで、しばらくお休みだそうです。
先輩は大丈夫ですか?》
___ほんっと、不倫の関係って、そんなもんなのね
先日、奈緒と話していたことを思い出した。なんの覚悟もなく、目先の欲だけで周りの人を傷つけて、いざとなったら逃げてしまう…。
あれだけ騒いだのだから、もっと手に手を取って仲睦まじく暮らせばいいのに。そしたら慰謝料もたっぷり請求しやすいのに、と思う。
それでも、桃子と和樹の関係が終わったことを知っても、何も感じない自分にホッとしている。なぜなら私は私の人生を誰にも左右されていないということなのだから。和樹という人にも、なんの未練もないということだ。
私の中に、特に二人を恨んだり憎んだりする感情ももう見当たらない。そのことにも安堵する。
___いつまでも、そんな感情に囚われているのは時間の無駄なのだから
これが私が目指した《きちんと離婚すること》だ。感情も金銭的なことも、片付けることができた。
その夜。
「お母さん、これ、社会見学のお土産、お父さんにも買ってきたんだけど……」
絵麻が、申し訳なさそうに小さな紙袋を出してきた。離婚したという意味がわかっているのだろう。
「あ、そう。どうする?持っていく?」
うーん、と考えている。離婚はしても、娘たちにとっては父親だということには、変わりはない。会いに行きたいと言えば、止めることはしない。
「持って行けば、お父さん、お小遣いくれるかな?」
「え?」
「だって、たくさんお小遣いくれるってこのまえ言ってたもん」
「そうだったね、そうかもしれないね」
あんなに邪険に扱われたことも、絵麻には記憶にないようだ。
「お母さん?来週の三者面談なんだけどさ…」
学校からのプリントを持ってきた莉子。
「はいはい、あ、もうそんな時期だねぇ」
A4のプリントを広げながら考えた。
___そうか…
莉子と絵麻、二人の娘を見ていて気付いたことがある。
私の人生において、桃子という存在は0だけど、和樹という存在は1くらいの影響はあった。絵麻も莉子も和樹がいたから、授かったのだから。
そしてこの二人の娘たちが、これから100にも1000にもなって私のこれからの人生を彩ってくれるに違いない。
___なかなかいい未来になりそうだな
そう思った。