光がまだ小学三年生だったころ――
彼は、クラスの人気者だった。
ちょっとドジで、でも優しくて、先生の真似をして笑わせたり、
ランドセルに光を灯して「てってれー!今日は宇宙から来ましたー!」なんて、変な自己紹介をするような子だった。
「ヒカルくんっておもしろーい!」
「なんか光ってるし!」
「ヒーローみたいー!」
その言葉が、嬉しかった。
誰かが笑ってくれるのが、嬉しかった。
ある日、学芸会の練習で体育館が使えず、教室で待機になった時。
光は言われた。
「ヒカルくん、あれやって!この前みたいに、キラキラ出すやつ!」
もちろんやった。窓際で、ちょっとだけ、光を手のひらに灯して。
でも、その日は違った。
もっと見たい! もっとすごいのが見たい!
そう言われて、光は――いつもより、ちょっとだけ強く光を出した。
……その瞬間だった。
「……あつっ!」
一番前にいた友達の男の子が、手を押さえてしゃがみ込んだ。
光は固まった。
小さな火傷だった。すぐに冷やして、傷は浅かった。
でも、その日から、周囲の目は変わった。
「あれって……能力、やばいよね」
「めっちゃ危ないよね……」
怖がられた。笑われなくなった。
光は、怖くなった。
「なんで……俺、ただみんなに笑ってほしかっただけなのに」
家に帰って、泣いた。
「こわい、もうやだ、使いたくない、やめたい……!」
その晩、父親が何も言わず、光の頭にそっと手を置いた。
「ごめんな、ヒカル。少しだけ、眠ってもらおう。君の光は、まだ強すぎる」
そして、光は夢を見た。
真っ白な世界で、自分だけが光っていた。
誰も近づけない。誰も笑ってくれない。
それから――光は、自分の能力のことを「ただの発光」と言うようになった。
面白いことも言わなくなった。ふざけるのもやめた。
「冷めてるね」って言われても、それでよかった。
あの日の光を、思い出さなくて済むなら。
けれど、どこか心の奥では、ずっと願っていた。
「もう一度、誰かの笑顔のために光れたらいいのに」
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