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とにかく、私は急いで必要な資料を用意し、これから始まる会議に備えた。
しばらくして、有名なお菓子メーカーの担当者2名がやってくると、まずは名刺交換が始まった。
「よろしくお願いします。アートディレクターの石川です」
「本日はどうぞよろしくお願い致します」
クライアントとの打ち合わせはいつも緊張する。
ひとつの商品を売るために、たくさんの大人達と、多額のお金が動く。当然失敗すれば大きな損失を生むことになる。私たちはいつだってミスをしないように心がけている。
いやでも気合いが入る瞬間だ。
コピーライターの私は、商品にかけるクライアントの思いをしっかりと受け取り、それを言葉に変える。
グラフィックデザイナーの一弥先輩は、商品パッケージや宣伝ポスターなどを手がける。
アートディレクターの石川さんは、全体図を考え、私達みんなを指揮する。
今回のチームには、その他に、カメラマンの本宮さん、アシスタントカメラマンの夏希、CMプランナーの山本菜々子先輩……
そして、もう1人のコピーライターで私の後輩の天野梨花(あまの りか)ちゃんがいる。
後、営業や補助のメンバーなども数人関わっている。
CMプランナーの山本菜々子先輩は……
そう、一弥先輩の……新しい彼女。
とても美人で仕事もできる。
少し派手めな雰囲気はあるけれど、性格はそれほどキツくはない……と言うか、正直、まだあまり関わったことがないので、本当の先輩のことはよく知らない。
CMプランナーが考えた内容に従って、CM撮影が行われるのだけれど、もちろん、一弥先輩もしっかり関わる。好きな人と同じ仕事ができるなんて理想の環境だと思う。
私には叶わなかったけれど、やっぱりうらやましい。
私たちは一通りの打ち合わせを終えた。
「今回の商品にはわが社としても特に力を入れております。ですのでCMのインパクトがどうしても必要です。御社にはいつもお世話になっておりますので、今回も最高のCMをどうぞよろしくお願いいたします。期待していますよ」
「承知いたしました。お任せください。文映堂が責任を持ってCMの製作を行って参ります。ご期待に添えるようがんばりますので、どうぞよろしくお願いします」
企業と石川さんのやりとり。
私は頭の中で商品のイメージを膨らませた。
だけれど、今回はいろんなことが邪魔して直ぐにはコピーが思い浮かばない。
情けないけれど、一弥先輩のことがどうしても頭の中に浮かんでしまって、集中できないというのが本音だ。
こんなことでは、到底良いコピーが生まれるはずがない。今の自分はプロとして失格だ。
「梨花ちゃん、打ち合わせしようか」
それでもやはり、ふわふわしていてはいけない。
プライベートなことを仕事に持ち込んではダメだとちゃんとわかっている。
このプロジェクトの成功のために、なんとしても良いコピーを考えたいと思う気持ちに嘘はないから。
私は、後輩のコピーライターの梨花ちゃんに声をかけ、隣同士に座った。
「はーい、恭香先輩。今回のお菓子のコピー、絶対に大成功させましょうね。私、精一杯頑張りま~す」
「う、うん、そうだよね。私も頑張るね」
可愛くて天真爛漫な梨花ちゃん。
ボブスタイルで緩めのパーマが女の子らしい雰囲気を醸し出している。
才能はあるけれど、ちょっと性格が掴めない。
この世界はみんな個性派揃いだから仕方がない。
「先輩、でも、今度の商品CM、楽しみですよね。私、好きなんですよね~「シンプル4」のメンバー。みんなめちゃくちゃカッコ良くて」
「シンプル4(フォー)」は、今をときめく超人気アイドルグループの男の子達。
全員が個性あるイケメンで、歌も上手く、ダンスもできる。
しかも、アメリカで厳しい修行を積んだらしく、ダンスは超一流だ。実際何度か踊っているところを見たことがあるけれど、それぞれの魅力がしっかりと出ていて応援したくなる。
テレビでも、SNSでも、今や彼らの人気はとどまることを知らない。
「そうだよね、4人とも本当にすごくカッコ良いもんね。それぞれのカッコ良さと、お菓子……今回はグミだけど、どういう雰囲気のコピーがいいかなぁって」
「そうですよね~。シンプル4の良さって、飾らなくて、さり気なくオシャレなところが素敵だと思うんですよぉ~。そういうの、一弥先輩と同じですよね? カッコ良いのに誰にでも優しくて、気配りができて、おまけに仕事も一流で。シンプル4のメンバーになれますよ、一弥先輩なら。そうなったらシンプル5ですよね~」
無邪気にケラケラ笑う梨花ちゃん。
確かに「シンプル4」のメンバーでもおかしくないくらい先輩は素敵。
本宮さんがクールなら、一弥先輩は太陽みたいな人。
明るくて、いっつも笑ってる。
笑うとクシャってなる顔がまた可愛くて……