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「未確認飛行物体」
灼熱はすでに走り抜け、少し冷たい息を吹きかけてくるような季節が訪れてきた。
最近は街で、ちらほら人の袖が長くなってき始めた。
寒さに弱く、季節の変わり目に風邪をひきやすい私は、準備を始めていた。
「やけにカメムシを見かける。今年は寒くなりそうだ。布団も暖かい物を用意しよう」
タンスにしまったはずの、厚みのある布団は見つからなかった。そりゃそうだ、あまりにも暖かく、眠り心地が良い為、去年両親にプレゼントしてしまったのだから。
「困ったな。早急に新しい布団を仕入れるか」
今時ネットで探せば安くて性能の良い物は沢山見つかる。
その言葉通り、早くも目に止まる物があった。極薄で暖かい真っ黒な布団。一番の魅力はなんとも安い値段。失敗したとて、痛くもない。
「これにしよう」私はすぐに購入し、届くのを待った。
数日が経ち、例の布団は届いた。
開けてみると、詳細の通り極薄で真っ黒で、触った感じは暖かさを感じた。
これは期待できると、すぐに布団を洗濯し、ベランダに吊るした。あの薄さだ、明日には乾くだろう。
私は晩御飯の支度をする為に、リビングを離れた。
「続いてのニュースです。明日は早朝から。台風が急接近する模様なので、皆様注意が必要です」
次の日の朝を迎えた。
何やら外の様子がおかしく、目覚ましが、風が窓を叩く音だった。
急いでテレビをつけると、どのニュースも台風を取り上げており、私は絶望した。
「なんて事だ。布団があぶない」
急いでベランダの扉を開けるも、すでに布団の姿は無かった。
私は癖でテレビをつける習慣はあったが、まじまじと見ることがなかった。そんな自分を初めて責めたくなった。
しかしもう遅い。布団に意志などない。どれだけ願おうが戻ってくることもないだろう。
「またしばらくして買おう」台風が止むまでは何事もそっとしておこうと決めた。
数日が経った。台風は去り、何事もなかったかの様な天候となった。
私はつい癖でテレビをつけた。しかしそこには気になる物が写っており、自然と画面に顔を近づけた。
「続いてのニュースです。今朝、謎の飛行物体が発見されたとの事です。その未確認飛行物体は真っ黒ではっきりとした姿が捉えれず、今もなお飛び続けており、宇宙人の侵略の可能性が最も高いと判断し、国が総力を上げて対応するとの事です」
私はつい笑ってしまった。
画面に映る物体は、私が買った極薄の布団だからだ。薄すぎるが故にふわふわと悪気無く、空高く飛ぶ布団。
「未確認飛行物体。国が対応。なんとも大袈裟に捉えすぎだよ」
それが人の悪い所でもあり、面白い所だとも言えるだろう。