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――来世では、もう会わない。
その言葉を思い出した瞬間、 勇斗の頭の中に、映像が流れ込んできた。
雨の音。 濡れたアスファルト。 街灯に照らされた、五人の影。
そして ―― 泣いている仁人。
「……っ」
勇斗は思わず目を閉じた。
「勇ちゃん?」
柔太朗の声がする。 けれど、その声さえ遠くなっていく。 記憶の中の自分が、仁人の前に立っていた。
「仁人、どういうこと?」
「……ごめん」
「何が?」
「もう、五人ではいられない」
仁人は泣いていた。
でも、四人には何も説明しなかった。 ただ何度も、
「ごめん」
それだけを繰り返している。
「……なんで」
勇斗の口から声が漏れた。
「なんで仁人は、あんなに泣いてるんだ……」
隣では、舜太が頭を押さえていた。
「俺も……思い出してきた」
「何を?」
「仁ちゃんが、俺らに何か言おうとしてた」
舜太は苦しそうに目を閉じる。
「でも……俺ら、聞かんかった」
「聞かなかった?」
「せや」
その言葉に、仁人が顔を上げた。
「……そうだった」
四人の視線が仁人に集まる。
「俺、みんなに話そうとした」
「何を?」
「でも……怖くなった」
仁人はゆっくり話し始めた。
「俺たちが五人でいると、いつも最後には誰かがいなくなる」
「それは、さっき聞いた」
「違う」
仁人が首を振る。
「俺たちが誰かを失うんじゃない」
四人が黙る。
「毎回――」
仁人の声が震える。
「俺が、みんなを失うんだ」
勇斗の息が止まった。
「……仁人?」
「俺だけが残るんだよ」
仁人は涙を拭った。
「何度生まれ変わっても、最後には四人の誰かがいなくなって……俺だけが、その後を生きる」
静寂。 誰も言葉を返せない。
「最初は偶然だと思った」
仁人は続ける。
「次の人生では、もっと一緒にいようって思った。俺がちゃんと守れば、今度は大丈夫だって」
でも、 何度やっても。 結果は同じだった。
「だから、最後の人生で決めたんだ」
「……何を?」
太智が尋ねる。
「俺たちが出会わなければいいって」
仁人は笑った。 泣きながら。
「俺がみんなを見つけなければ、みんなは普通に生きられる」
「だから……」
柔太朗が呟く。
「来世では、会いませんようにって?」
「うん」
仁人は頷いた。
「それが俺の最後の願いだった」
勇斗は拳を握った。
「……でも、それじゃ仁人は?」
「俺?」
「仁人はどうなるんだよ」
「俺はいい」
「よくない」
勇斗の声が響いた。 仁人が驚いて顔を上げる。
「四人が幸せなら、それでいい」
「俺たちだけ幸せになって、それで仁人が一人になるなら――」
勇斗は首を横に振った。
「そんなの、俺たちの幸せじゃない」
仁人の目から、また涙が落ちた。
「……でも、怖いんだ」
「うん」
「また失うのが怖い」
「うん」
「また俺だけ残るのが怖い」
勇斗は静かに答えた。
「じゃあ、今度は一人で怖がらなくていい」
仁人が顔を上げる。
「五人で考えよう」
舜太が頷いた。
「せやな」
「俺もそう思う」
柔太朗が笑う。
「今まで一人で抱えてたんでしょ。もういいよ」
「俺らにも背負わせてや」
太智が続けた。
「五人分の人生なんやから、五人で決めたらええ」
仁人は四人を見つめた。 ずっと避けていた。 ずっと嫌われようとしていた。 それなのに。 四人は、まだ自分の隣にいる。
「……なんで」
仁人は小さく呟いた。
「なんで、そんなに俺のこと……」
「好きだから」
勇斗が答えた。 仁人の目が見開かれる。
「大切だから」
柔太朗が続ける。
「家族みたいなもんやろ」
舜太が笑う。
「今さら一人にできるわけないやん」
太智も笑った。 仁人は俯いた。 そして、 ずっと我慢していた涙をとうとう止められなくなった。
「……ずるいよ」
「何が?」
「そんなこと言われたら……」
声が震える。
「また、五人でいたくなるじゃん……」
誰も笑わなかった。 勇斗が一歩だけ近づく。
「それでいいよ」
仁人は顔を上げた。
「今度は、逃げなくていい」
その言葉に、 仁人は初めて、四人から目を逸らさなかった。
――その夜。
五人は久しぶりに、同じ場所で笑った。 まだ、何も解決していない。 未来がどうなるのかも分からない。 それでも、 五人でいることを選んだ。
その帰り道。
仁人は一人、少し後ろを歩いていた。 前を歩く四人の背中を見つめる。 そして、小さく笑った。
――本当は。 ずっと、この景色を見たかった。 だけど、 仁人はまだ知らなかった。
四人が思い出した記憶の中には。 もう一つ、隠された「最後の日」の記憶があることを。
そして、その記憶こそが。 仁人が何度生まれ変わっても、四人から離れようとする本当の理由だった。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 ……読んでて、胸がぎゅってなったよ。 仁人がずっと一人で抱えてた「また失うのが怖い」って気持ち、すごくわかる気がする。 でも、勇斗たちが「今度は一人で怖がらなくていい」って言ってくれたシーン、ほんとに良かった。 五人でいることを選んだその夜の笑顔、尊すぎた……。 でも最後の“隠された記憶”の一文で、また心臓が冷えたよ。 次が気になる……! 更新、待ってます🌙