テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
511
61
風が、ざわめいていた。
昨日よりも濃く、重く、まるで何かを運んでくる前触れみたいに。
「……また来る」
ノクスが低く言う。
その手は、すでに大剣にかかっていた。
「数、多いね」
リュシアが目を細める。
遠く、木々の影が揺れる。
気配が、増えていく。
アルトは小さく息を吐いた。
「……来るぞ」
その声に、全員が構えた。
フィリアの周囲で、光が静かに集まる。吸い寄せられるように、空気が歪む。
――戦闘。
それは、避けられない。
最初に飛び込んできたのは、歪んだ花人たちだった。
昨日と同じ。
いや、それ以上に。
「速い!」
リュシアが叫ぶ。
銃口が閃く。
細かい光弾が連続で撃ち込まれる。
だが。
「……硬い!」
弾が弾かれる。
ノクスが踏み込む。
「なら、砕くまでだ」
大剣が振り下ろされる。
衝撃が地面を割る。
だが、敵は止まらない。
「……っ!」
アルトが銃を構える。
フィリアが生成した小型の武器。
引き金を引く。
光が、核を狙う。
一体、崩れる。
それでも。
数が多すぎる。
「……下がって」
その声は、静かだった。
フィリア。
一歩、前に出る。
武器が、変形する。
刃と銃の輪郭が溶け合い、巨大な光の塊へと変わる。
「……全部、終わらせる」
その言葉に、迷いはなかった。
光が、一気に収束する。
吸い込む。
周囲のエネルギーを、すべて。
空気が震える。
「フィリア、それ――!」
リュシアが叫ぶ。
止める間もなく。
解放。
――閃光。
広範囲に、光が薙ぎ払う。
一瞬で、複数の敵が崩れ落ちる。
その威力は、明らかに昨日とは違っていた。
「……すご……」
リュシアが息を呑む。
ノクスも、わずかに目を細めた。
だが。
その静寂は、すぐに破られる。
「アルト」
声。
その場の空気が、凍る。
アルトの瞳が揺れる。
「……シオン」
木々の奥から、姿が現れる。
変わらない顔。
けれど、決定的に違う“何か”。
「もうこんなことやめろ」
アルトが言う。
「これ以上……」
「やめないよ」
穏やかに、遮る。
「もう、止める理由がない」
その声に、怒りはない。
ただ、決意だけがある。
フィリアが、一歩前に出る。
「……あなたが、やったの?」
まっすぐな問い。
シオンは、彼女を見る。
「そうだよ」
あっさりと、答える。
その瞬間。
フィリアの目が、揺れる。
「なんで……」
震える声。
でも、逃げない。
「なんで、あんなふうにするの」
問いは、怒りではなく――
痛みだった。
シオンは、少しだけ目を細める。
「そのままじゃ、消えるから」
静かに言う。
「なら、変えるしかない」
「違う!」
フィリアの声が、響く。
「それじゃ残せない!」
空気が、震える。
「苦しんでた!」
「助けてって言ってた!」
一歩、踏み出す。
「なのに、なんであんな形にするの!」
その叫びに、風が揺れる。
シオンは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
でも。
「……それでも」
顔を上げる。
「残す方を選ぶ」
その言葉は、揺らがない。
「僕は、そうする」
沈黙。
張り詰める空気。
その中で。
フィリアの光が、強くなる。
「……じゃあ」
低く、言う。
「止める」
その瞳は、もう迷っていなかった。
その瞬間。
空が、裂けた。
「……なに……!?」
リュシアが息を呑む。
上空に、巨大な影。
光が集まり、広がる。
空間そのものが歪むような感覚。
そして。
ゆっくりと、降りてくる。
「……はじめまして」
少女の声。
静かで、どこか遠い。
「クレハ、って呼ばれてる」
その存在に、全員が息を止める。
圧。
ただそこにいるだけで、空気が重くなる。
「シオンと共にある者」
淡々と、言う。
「ちょっと、暴れすぎでしょ」
その手が、ゆっくりと上がる。
空気が、震える。
次の瞬間。
――爆ぜる。
広範囲に、光の衝撃が降り注ぐ。
「っ……!」
ノクスが前に出る。
剣で受ける。
だが、押される。
「範囲、広すぎる……!」
リュシアが叫ぶ。
回避が追いつかない。
アルトも、歯を食いしばる。
「なんだ、あいつ……」
クレハは、無表情のまま。
「排除、開始するね」
その一言で、さらに光が膨れ上がる。
「……やらせない」
フィリアの声。
前に出る。
クレハと、真正面から向き合う。
「へえ」
クレハが、わずかに首をかしげる。
「あなた、面白いね」
次の瞬間。
二つの光が、ぶつかる。
轟音。
空気が裂ける。
フィリアは、退かない。
吸収し、増幅し、撃ち返す。
その力は、クレハにすら拮抗していた。
「……本気なんだ」
クレハが呟く。
フィリアは答えない。
ただ。
前を見ている。
守るためじゃない。
止めるために。
壊す覚悟で。
その後ろで。
アルトは、動けなかった。
視線の先には、シオン。
「……来ないのか?」
シオンが、静かに言う。
その一言が、胸を刺す。
アルトは、拳を握る。
でも。
まだ、動けない。
「……やっぱり」
シオンが、わずかに笑う。
「お前は、そうだよな」
その言葉は、優しかった。
だからこそ、深く刺さる。
アルトの足が、ようやく動く。
でも、その一歩は――
遅れていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!