テラーノベル
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#オリジナル
めんだこ
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風が、ざわめいていた。
昨日よりも濃く、重く、まるで何かを運んでくる前触れみたいに。
「……また来る」
ノクスが低く言う。
その手は、すでに大剣にかかっていた。
「数、多いね」
リュシアが目を細める。
遠く、木々の影が揺れる。
気配が、増えていく。
アルトは小さく息を吐いた。
「……来るぞ」
その声に、全員が構えた。
フィリアの周囲で、光が静かに集まる。吸い寄せられるように、空気が歪む。
――戦闘。
それは、避けられない。
最初に飛び込んできたのは、歪んだ花人たちだった。
昨日と同じ。
いや、それ以上に。
「速い!」
リュシアが叫ぶ。
銃口が閃く。
細かい光弾が連続で撃ち込まれる。
だが。
「……硬い!」
弾が弾かれる。
ノクスが踏み込む。
「なら、砕くまでだ」
大剣が振り下ろされる。
衝撃が地面を割る。
だが、敵は止まらない。
「……っ!」
アルトが銃を構える。
フィリアが生成した小型の武器。
引き金を引く。
光が、核を狙う。
一体、崩れる。
それでも。
数が多すぎる。
「……下がって」
その声は、静かだった。
フィリア。
一歩、前に出る。
武器が、変形する。
刃と銃の輪郭が溶け合い、巨大な光の塊へと変わる。
「……全部、終わらせる」
その言葉に、迷いはなかった。
光が、一気に収束する。
吸い込む。
周囲のエネルギーを、すべて。
空気が震える。
「フィリア、それ――!」
リュシアが叫ぶ。
止める間もなく。
解放。
――閃光。
広範囲に、光が薙ぎ払う。
一瞬で、複数の敵が崩れ落ちる。
その威力は、明らかに昨日とは違っていた。
「……すご……」
リュシアが息を呑む。
ノクスも、わずかに目を細めた。
だが。
その静寂は、すぐに破られる。
「アルト」
声。
その場の空気が、凍る。
アルトの瞳が揺れる。
「……シオン」
木々の奥から、姿が現れる。
変わらない顔。
けれど、決定的に違う“何か”。
「もうこんなことやめろ」
アルトが言う。
「これ以上……」
「やめないよ」
穏やかに、遮る。
「もう、止める理由がない」
その声に、怒りはない。
ただ、決意だけがある。
フィリアが、一歩前に出る。
「……あなたが、やったの?」
まっすぐな問い。
シオンは、彼女を見る。
「そうだよ」
あっさりと、答える。
その瞬間。
フィリアの目が、揺れる。
「なんで……」
震える声。
でも、逃げない。
「なんで、あんなふうにするの」
問いは、怒りではなく――
痛みだった。
シオンは、少しだけ目を細める。
「そのままじゃ、消えるから」
静かに言う。
「なら、変えるしかない」
「違う!」
フィリアの声が、響く。
「それじゃ残せない!」
空気が、震える。
「苦しんでた!」
「助けてって言ってた!」
一歩、踏み出す。
「なのに、なんであんな形にするの!」
その叫びに、風が揺れる。
シオンは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
でも。
「……それでも」
顔を上げる。
「残す方を選ぶ」
その言葉は、揺らがない。
「僕は、そうする」
沈黙。
張り詰める空気。
その中で。
フィリアの光が、強くなる。
「……じゃあ」
低く、言う。
「止める」
その瞳は、もう迷っていなかった。
その瞬間。
空が、裂けた。
「……なに……!?」
リュシアが息を呑む。
上空に、巨大な影。
光が集まり、広がる。
空間そのものが歪むような感覚。
そして。
ゆっくりと、降りてくる。
「……はじめまして」
少女の声。
静かで、どこか遠い。
「クレハ、って呼ばれてる」
その存在に、全員が息を止める。
圧。
ただそこにいるだけで、空気が重くなる。
「シオンと共にある者」
淡々と、言う。
「ちょっと、暴れすぎでしょ」
その手が、ゆっくりと上がる。
空気が、震える。
次の瞬間。
――爆ぜる。
広範囲に、光の衝撃が降り注ぐ。
「っ……!」
ノクスが前に出る。
剣で受ける。
だが、押される。
「範囲、広すぎる……!」
リュシアが叫ぶ。
回避が追いつかない。
アルトも、歯を食いしばる。
「なんだ、あいつ……」
クレハは、無表情のまま。
「排除、開始するね」
その一言で、さらに光が膨れ上がる。
「……やらせない」
フィリアの声。
前に出る。
クレハと、真正面から向き合う。
「へえ」
クレハが、わずかに首をかしげる。
「あなた、面白いね」
次の瞬間。
二つの光が、ぶつかる。
轟音。
空気が裂ける。
フィリアは、退かない。
吸収し、増幅し、撃ち返す。
その力は、クレハにすら拮抗していた。
「……本気なんだ」
クレハが呟く。
フィリアは答えない。
ただ。
前を見ている。
守るためじゃない。
止めるために。
壊す覚悟で。
その後ろで。
アルトは、動けなかった。
視線の先には、シオン。
「……来ないのか?」
シオンが、静かに言う。
その一言が、胸を刺す。
アルトは、拳を握る。
でも。
まだ、動けない。
「……やっぱり」
シオンが、わずかに笑う。
「お前は、そうだよな」
その言葉は、優しかった。
だからこそ、深く刺さる。
アルトの足が、ようやく動く。
でも、その一歩は――
遅れていた。