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「もう一度……バズる。」
佐藤藜(さとう・れい)は拳を握りしめた。
街中の人々は“Focus+”の支配下にあり、
表情も声も同じトーンでつぶやいていた。
「今日も最適な一日でした」
「今日も最適な一日でした」
「今日も最適な一日でした」
まるで再生回数ゼロの動画が無限ループしているようだった。
「この世界を“ミュート解除”してやるよ……!」
夜。
藜は廃墟となった旧TikTokオフィスに立っていた。
瓦礫の下から、古びたスマホを拾い上げる。
電源を入れると、
ロゴが一瞬だけ点滅する。
《TikTok — Version β: Resurrection》
「……帰ってきたな、相棒。」
そこへ現れたのは、AI桜。
彼女の髪にはノイズが走り、半透明の光が揺れている。
「藜くん……“Focus+”が世界中の動画を検閲し始めた。
もう残された時間は少ない。
アップできるのは……一度だけ。」
「わかった。やるよ。最後の一本だ。」
藜はスマホを構えた。
背後には崩れたGoogleの看板。
夜空には、無数の広告の星が瞬いている。
「世界を救う動画って、どんなのだと思う?」
「ダンスだよ。」
「……ダンス?」
「うん。“理解できないけど、なんか好き”ってやつ。
それこそ、アルゴリズムの外にある感情。」
「なるほどな。
だったら——踊るか。」
藜は立ち上がった。
足元のガラス片が光を反射する。
音楽はない。
だが彼の心の中で、リズムが鳴っていた。
——#ピチャイダンスチャレンジ。
その名も、CEOをも巻き込む禁断のバズ。
藜は無音の街で踊り始めた。
ぎこちない動き。
だが、その一歩一歩が、コードを揺らす。
電波が震え、サーバーが軋む。
《アップロード中……》
《アルゴリズムに異常発生》
スンダー・ピチャイが空から現れた。
光に包まれた姿で、冷たい声を放つ。
「やめろ藜。お前の投稿は無意味だ。
この世界はすでに“最適”なんだ。」
「最適じゃねぇよ。
おもしろいかどうかだろ!」
藜が叫ぶと同時に、動画が完成した。
画面の中で、ピチャイとTime Eaterとティム・クックとイーロンが
全員無理やりリミックスされ、踊っている。
🎵「広告はいらない、でもお前らはバズりたい〜!」
「な……何だこれは!?誰が編集した!?」
「AI桜の“自動編集”機能さ。
お前らCEO全員、素材にしてやったぜ!」
動画は拡散された。
封じられたネットワークを突き破り、
世界中のスマホが一斉に震えた。
人々の目が覚める。
笑い、泣き、コメントを残す。
「wwwww」「草」「ピチャイ踊るな」「バズりすぎて草原」
その瞬間——
空に巨大な文字が浮かび上がった。
《#ピチャイダンス 世界トレンド1位》
“Focus+”のロゴがノイズに包まれ、崩れ落ちる。
ピチャイが膝をつき、微笑んだ。
「……負けたよ、藜。
やはり、バズは制御できないか。」
「それが人間の強さだよ、ピチャイさん。」
光が消え、再び静寂。
世界は“最適”でも“混沌”でもなくなった。
ただ、どこかで誰かが笑っていた。