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大学病院、特別棟十七階。私は、人工呼吸器をつけて眠り続ける彼を見下ろす。


「コイツね…私達を殺したいほど憎んでいたんだ……」


私の隣で、新人メイドの卯月も欠伸をしながら彼を見ていた。震えている私の右手を優しく握りながら。


「随分と彼らには酷いことをしましたからね~。門番の殴る蹴るに始まり……。彼の父親を自殺寸前まで追い込みました」


「……………分からないの。教えて…卯月……。彼はどうして……私を助けてくれたの? わたし、どうしても分からなくて………。分から…なく……て……」


この止まらない涙に戸惑いながら、卯月に抱きついた。


「ーーーそれはきっと憎しみより、お嬢様を助けたいっていう彼の優しさが勝ったからでしょう。たまにいるんですよね~~こういうバ………輩が。まぁ、残念なことに彼らのほとんどは、神華のような強者に搾取され続け、不幸な死が待っていますけど」


「彼に何か恩返しがしたいの。彼……何が、欲しいかな。お金? 家? それとも……」


「う~ん。彼は、私達から何も受け取らないでしょう。つまらないプライドが邪魔して。………さぁ、そろそろ時間なので帰りますよ? あんまり帰りが遅くなると私の嘘がバレて、旦那様に叱られてしまいます」


「また……ここに来てもいい?」


「ダメです! 旦那様にバレて、厄介なことになります。今日の面会も私の独断ですし。あまり、困らせないでくださいよ。はぁ………」


「わたし、決めた! 将来、彼と結婚する!!」


「アッハハハハ!! 結婚? 三大財閥。世界を裏で操る神華のご令嬢が、借金まみれの町工場。ダメダメ親父のダメ息子と結婚ですか?」


「もう決めたの!! だからね、卯月。私達の結婚を全力でサポートして。……お願い。邪魔する者は、全員排除して構わないから」


「う~ん……。楽しい殺しが出来そうな予感はしますね…………。承知いたしました。私、卯月。彼とお嬢様を必ず結婚させます」


………………………………。

……………………。

……………。


それから、七年後。


定期的に開かれる、くだらない暇潰しのパーティーで、彼と再会した。人が沢山いる場所では男の格好をするようにパパに命令されていたから、彼は私を女だと気づいていない。


「あのさぁ、お前に妹っている?」


「いないよ。僕は、一人っ子だからね。どうして、そんなことを聞くの?」


「かなり前に、この屋敷に来たことがあってさ。その時に………。事故のせいで記憶が曖昧であまり思い出せないんだけど……。確か、可愛い女の子がいた気がするんだよな……」


「君の勘違いじゃない?」


「そうかなぁ……」


そうは言ったけど、結局、私は我慢が出来なかった。


彼に本当の自分を知って欲しかった。


二人でパーティー会場を抜け出して、誰も近づかない秘密の拷問部屋まで走った。そこで私は邪魔な服を脱ぎ、裸になった。自分が女であることを彼に告白した。


嫌わないで………。


お願い…………。



これが、本当の私なのーーーー。



私は、謝った。昔、彼ら親子に酷いことをしたことを。


「………気にしなくていい。まぁ……昔のことだし。ってか、風邪引くぞ」


彼は恥ずかしそうに俯きながら、泣いている私の頭を撫でてくれた。彼の上着は温かくて。なんだか、頭もふわふわ夢心地。


「あなたが…好きなの……」


「うん………」


気づいたら、彼と三十分もキスしていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


声がするーー。


始めは、囁くような声だった。でも今は、耳をどんなに塞いでもその声が頭にハッキリと響き、離れない。


『本当のお前を見せろ』


「本当って、なんだよ!! 意味が分からない……」


『本当のお前を見せろ』


「だから………何なんだよ……。親父……もう……勘弁してくれ……。俺の頭から出ていってくれ……」


水を浴びたような汗。マラソンした後のように息が荒い。

俺は、自分の眼前に立つ死んだはずの親父を見た。



『あの女を殺せ』


「………七美のことか? ………ふざけるな……。俺に出来るわけがない。こんなに愛しているんだから……」


『俺達、親子を不幸にした』


「ちが…う……」


『アイツらは、悪魔だ』


「違うって!!」


『………………』


「七美はさ、親父が作った借金を全部返済してくれたんだよ?………それなのに、勝手に自殺したのは、親父じゃないか……」


『アイツらが殺した者達の血が染み付いた汚い金だ。そんなものただの』


「金は、金だろっ!! もう………消えてくれよ…………頼むから………」



俺の家には、一つも鏡がない。だいぶ前に全部、割って捨てた。俺は、歪んでいく自分自身を見るのが恐い。親父が残した憎しみに囚われていくのが、恐くて恐くて……。


本当にいつか、七美を傷つけてしまうんじゃないか……。憎しみに支配され、殺してしまうんじゃないか……。それを本気で考えてしまっている自分が、恐かった。


冷やし上手な彼女

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