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展望台へと続く長い階段を登りきると、そこには鈴鹿サーキットの全景と、伊勢湾まで続く街の灯りが広がっていました。
「はぁ、はぁ……誰も、いないのか?」
大樹が肩で息をしながら周囲を見渡します。展望台には僕たち4人以外、人影はありませんでした。
「あかりちゃん……やっぱり、もういないんだよね……」
真央が寂しそうにポツリと呟きました。10年という歳月は、奇跡を信じるには長すぎたのかもしれません。
しかし、その時です。
展望台の最前列、フェンスに括り付けられた「何か」が、強い風に煽られてパタパタと音を立てました。
それは、見覚えのある水色のリボンと、小さなガラス瓶でした。
僕が駆け寄ってその瓶を手に取ると、中には丸められた一枚の紙が入っていました。
『20歳になったみんなへ。約束を守ってくれてありがとう。』
その文字を読んだ瞬間、風がピタリと止みました。
それは、見覚えのある水色のリボンと、小さなガラス瓶でした。
僕が駆け寄ってその瓶を手に取ると、中には丸められた一枚の紙が入っていました。
『20歳になったみんなへ。約束を守ってくれてありがとう。』
その文字を読んだ瞬間、風がピタリと止みました。
ざわついていた木々の音も、遠くの車の走行音も消え、まるで世界から音が失われたような静寂が訪れます。
「……見て、あれ」
理恵が指差した先。夕景と夜の境界線に、一人の女性が立っていました。
白いコートを着て、僕たちと同じ、20歳の姿をした女性。
「あかり……なの?」
僕が声をかけると、彼女はゆっくりと振り向きました。
10年前の面影を残したまま、少し大人びた表情。彼女は何も言わず、ただ優しく微笑みました。
「あかり! 会いたかった、ずっと……!」
真央が駆け寄ろうとしたその時、彼女は自分の唇に人差し指を当て、「しーっ」というポーズをしました。
そして彼女は、僕たちが持っていた「交換日記のノート」を指差します。
僕たちが慌ててノートを開くと、白紙だったはずの最後のページに、リアルタイムで文字が浮き上がってきました。
『私はずっと、この風の中にいるよ。2026年の鈴鹿は、いい風が吹いてるね。』
再び強い風が吹き抜け、僕たちが顔を上げたとき、彼女の姿はもうどこにもありませんでした。
代わりにそこに立っていたのは、花束を持った一人の年配の女性――あかりのお母さんでした。
「……みなさん、来てくれたのね。あかりが言っていた通りに」
お母さんの目には、涙が溜まっていました。彼女は今日、あかりの誕生日に、娘が20歳になったら渡すはずだった「あるもの」を僕たちに届けるために、ここに来たと言います。
(最終話へ続く)