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とは言いますがある日、蛇口をひねると猫が出てきました。
あまりのことに驚き、しばらくそのまま見ていると、猫はどんどん流しにたまり、
もしやこのまま溢れてしまうのではないかと思った私は、慌てて蛇口をしめました。猫はしばらくたぷたぷとしていましたが、そうするうちにだんだん良く知る猫の形になり、
やがてすとんと床に降り立ちました。我が物顔で部屋を歩き、猫は段ボール箱に入ります。
上から見ると、猫はすっぽり箱の形に納まっていました。「こら」私は猫に言いました。「それには缶詰がまだ何個か入っているんだよ。出てきなさい」
「ふぬん」猫は不満げに鳴きました。確かに、開けたまま置きっぱなしにした私が悪い。
でも急に猫が現れるなんて、誰が予想できたでしょうか?
無精を叱られる謂れなど、さっきまで無かったはずなのです。箱の猫を抱き上げると、胴がぐんにゃり伸びていき、猫はどんどん長くなります。「うわ、重たい」しっかり抱きかかえるためには、一度体勢を整えなければいけません。
そう思って床に下ろせば、猫は「よしきた」とばかりに逃げていきます。「あっ、こら」猫はすばやく廊下に、ソファに、流し台の上に、そこから冷蔵庫の上に。「もういいよ」私は疲れてしまいました。「好きなだけそこにいなさい」そう言って、冷蔵庫の扉を開ける私を、猫は上から黙って見ています。
私が取り出した細長い袋を、どうやらこの猫も知っているようです。
私はにやけそうになる顔をきゅっと引き締め、何もないような顔をしながら、ごろんとソファに寝そべりました。そうすると、猫は慌てたようにトトトンと軽い音で降りてきて、
まんまと腹の上にやってきました。
そうです、ちゅーるを嫌いな猫などいないのです。
ぺろんぺろんとピンクの舌で口の周りを舐めていた猫は、
ようやく満足したように目を閉じて、そのままぐるんと丸まりました。
ふわふわとした毛を無遠慮に撫でても、「ふぅ」とため息をつくだけで、
腹の上からどく気配はありません。
その重みも、手触りも、温かさも、まさに私にぴったりでした。「蛇口から出てくるとは思わなかったよ。
ゾンビでいいから会いに来てとは言ったけどさ」小さな寝息を聞いてるうちに、いつのまにか私も眠ってしまいました。
目を開けると、部屋はいつも通り静かなもので、
自分以外の気配など最初から何処にもありませんでした。「あぁ、蒸発しちゃったんだな。猫は液体だからなぁ」私はそう納得しました。
まだ寝ぼけていたものですから。
次の日、電気ケトルから猫が出てきました。
これだから猫ってやつは奴は勝手に寝床にやってくる。奴はいつもあちこち動き回って忙しない。一緒に寝るぞと呼び寄せても来ないくせに、こちらがうとうとし始めると、そろりと寝床にやってくる。まったく仕方のない奴だ。暑くて寝苦しい夏、頼んでもいないのにぴったり身体を寄せてくる。
鬱陶しくてたまらない。耐えかねて、たまにしぶしぶ、寝床を譲ってやることもある。寒くて凍える冬は良い。くっつくほど、ぬくぬくとして心地が良い。しかしもぞもぞ動くのはいただけない。いつだって奴は勝手に寝床にやってくる。
そして先に寝ている私を見て、いつも呆れたようにこう言うのだ。「これだから猫ってやつは」
腹が減っているのだと思い、
カリカリを少しあげました。猫がニャンと鳴いたので、
おやつの催促だと思い、
にぼしを少しあげました。猫がニャンと鳴いたので、
あぁ見つかったかと観念して、
カニカマを少しあげました。猫がニャンと鳴いたので、
たまにはいいかと奮発して、
猫用焼きカツオをあげました。弟「あれ? 母さんそれ猫のおやつ?」
母「うん、たまにはご飯以外の楽しみも必要でしょ」
弟「あー…俺さっきおやつのつもりでカリカリあげちゃった…」
母「は!?」
弟「ご飯足んなかったのかなぁ~って思って…」
母「ちょっと! 太りすぎだからダイエット頑張ってるところなのに!」
姉「え、ごめん、私もさっきにぼしあげちゃった」
母「お姉ちゃんも!?」
姉「もうおやつもらってたなんて知らなかったし…」
父「すまん」
母「お父さんも!?」
父「一日何も食べてないみたいな顔して鳴くから…カニカマを…」
弟「完全に騙された」
姉「詐欺られた」
父「我々は被害者だ」母「……だから全然痩せないのね…! このまんまる猫め…!」特殊詐欺猫はニャンと鳴いて逃げて行った。
天地猫創造「光あれ」と神が言った。
「猫で満ちよ」と私が言った。
創造主第1日
はじめに神はモフモフしたものを創造した
神が「しっぽあれ」と言うとしっぽができた
第2日
神は四肢を創った
モフモフの間に四肢を造り、前足と後ろ足とに分けた
プニプニした部分を肉球と呼んだ
第3日
ツンとデレを創り、ツンの比率を強めにした
「温かい所に集まり、塊になって現われよ」と言った
温かい所を”こたつ”、もしくは”PCのキーボードの上”と呼んだ
「布団で一緒に寝よ」と言うと、寝返りが打てない絶妙な位置で香箱座りをした
第4日
三毛と茶虎とハチワレを創った
神はアメショとペルシャとメインクーンを創り、スコに垂れ耳を、マンチカンに短足を司らせた
そしてそれらをかけ合わせ、雑種に至るまで可愛くなるようにした
第5日
その他の動物を創った
第6日
神は自分を象って男と女を創造した。神は人を祝福して言った
「産めよ、増えよ、地に満ちて猫に従い、全ての猫に使役されよ」
第7日
こうして猫は完成した
神は仕事を離れて安息した
神は有給を取り、猫カフェに行った
あたたかい日はそれはもう水飴のごとく。
ある日コタツを出したとき、猫はずいぶんそれを気に入ったようで、中に入った切り出てこなくなった。私も一緒にコタツに入っていたが、暖かさに負けて眠気が襲ってきてしまった。「ちょっとだけ…ちょっと横になるだけ…」私がもぞもぞと動いたことで猫が起きてしまったのか、コタツ布団をかいくぐってひょこりと顔を出してきた。
頭をなでると、猫はそのままスルスルと這い出てきたので、手の下で滑っていく猫の体の感触が楽しめた。「自動なでなでだ。便利だなぁ~」途中で目を閉じてしまったが、その時点で既に寝ぼけていたのかもしれない。
スルスル、ふわふわ、スルスル、ふわふわ、いつまで経っても終わらない幸せの不自然さに気づいたのは、体感で恐らく3分は経っていた頃だった。いくら猫が伸びると言っても、そんなに長くなるわけがない。「え?」急に覚醒して目を開けると、途端にスルスルふわふわが終わってしまい、見えたのは去り行く尻尾だけだった。……さっきのは、気のせいか夢だったに違いない。
そう信じたかった私は、そのままコタツで横になって寝た。
翌日、風邪を引いてしまった。
「すみません、うちの猫を見かけませんでしたか? 急にいなくなってしまったんです」
「それはたいへんだ、特徴は?」
「ええと、いたって普通の白猫なんです。
耳がふたつ、目がふたつ、
前足がふたつ、後ろ足がふたつ、
あと、最近尻尾もふたつになりました」
「あぁ、なら探しても無駄でしょう。きっと修行に出かけたのですよ」
「そんな…うちの猫はいつ帰ってくるんでしょうか?」
「修業が終わって、新しい毛皮に着替え次第ですかねぇ」
「三毛でもブチでも何でもいいけど、早く帰ってきてくれないかしら」
「猫は気まぐれですからねぇ、いつになるやら」
一度きり「俺さっきバッタ食ったわ」猫が一度だけ喋るという噂を聞いたことがありますが、何故一生に一度の機会を使ってそんな報告をしてきたのか、どれだけ考えても未だにわかりません。
ある年の瀬、ストーブの前でぬくぬくとスマホをいじっていた私は、父に呼ばれて仕事の手伝いをさせられることになりました。
町内を車で走り回って顧客に商品を配達する手伝いは、雪の降る時期はいつにも増して面倒です。積もった雪をかきわけて玄関まで商品を持って行き、戻るときは自分の足跡をピッタリ辿ります。車に入るときはドアを開けたまま一旦イスに座り、両足を叩き合わせ、靴についた雪を外に落としてからドアを閉めます。雪を車内に持ち込むと、それが暖房で融けてフロントガラスが曇りやすくなってしまうからです。この一連の動作を朝から夕方までやり続けるのは、インドアの身にはたいへん堪えます。
「よし、次は奥から2軒目の家に行け。父さんは向こうに車停めて、近くの家を回るから」
長屋形式の賃貸住宅が密集する場所で、私は車から降ろされました。踏み出す度に埋まる足に辟易しながらも、なんとか目的の家まで荷物を運び、自分を降ろした場所から50メートルほど遠くに停められた車を目指そうとしたとき、視界の端に黒いかたまりが見えました。
「あ、猫」
目に入る色がほぼ白で占められる中、その黒猫はひときわ目立っていました。猫は私と目が合っても、逃げるそぶりを見せません。
「父さん! 猫! うちのにそっくりな猫がいるよ!」
猫好きの私は、同じく猫好きの父に知らせようと声をあげましたが、残念ながら父はまだ車に戻ってきていないようでした。
「……あれ?」
目線を猫に戻すと、先ほどの黒いかたまりが何故か二つに増えていました。どちらもさっき見た黒猫と瓜二つ。さては親子か兄弟か。
「うわぁかわいい! 父さんも絶対見たいでしょコレ」と思うものの、父は未だに姿を見せず、仕方なく猫に目を戻すと、
「え!?」
猫は4匹に増えていました。白い空、白い地面に、点在する4つの黒。みんな揃いの黒い体、8個の黄色の目が全て私をとらえています。
私は無言で、そっと車がある方向に顔を向けました。ようやく戻ってきていた父の姿に若干ほっとし、興奮冷めやらぬまま父を呼びました。
「父さん! 猫! すっごいいっぱいいる! 来て見てよ!」
そしてまた猫達の方に目を戻すと、
「…………はぁ???」
猫はさらに増えていました。兄弟にしては多い、親子にしては大きさの揃った、そっくりな黒猫たちが、何故か全員一様に私をじっと見ているのです。
「えっ!? なんだぁこりゃあ!?」
合流した父が発したすっとんきょうな声のせいで、黒いかたまりたちは一斉にワッと走り去ってしまいました。あっという間に、また視界は白一色に逆戻りです。
「今の、全部猫だよな? 黒猫ばかりなんてめずらしいなぁ」
そう呟く父に、私は目を離すたびに猫が増えていく珍妙な現象を嬉々として報告しました。私の話を聞いた父は、しばし考え込んだのち、真剣な顔でこう言いました。
「もしかして、あれは元は1匹の猫で、お前が目を離すたびに分裂していったんじゃないのか。猫は九つの命を持つと言うし、ちゃんと数えていなかったけど9匹くらいいた気がするぞ」
そんなまさかと私は笑い、「なんのために」と聞きました。父はこれまた神妙な顔で言いました。
「そりゃ、お前をからかうためだよ」
父も私も、朝から働いていたので疲れていたのでしょう。二人でひとしきり爆笑してから車に戻り、粛々と作業を再開しました。そうして家に着くころには私はすっかりへとへとになっており、夕飯を心待ちにしながら、人間を差し置いてストーブ前でくつろぐ猫に話しかけました。
「ねぇ、お前は分裂ってできたりする?」
目の前の黒いかたまりはしっぽをパタンと一振りしただけで、何も答えてはくれませんでした。