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冬の冷たい風が砂浜を吹き抜ける。
川崎美浦はコートの襟を立て、少し震えながら海を見つめていた。
隣の川井優奈は、マフラーをぐるりと巻きなおしてから、静かに話し始めた。
「覚えてる?私たちが初めて海に行ったあの日。」
美浦は目を閉じて、遠い記憶をたどる。
春の暖かい日差しの中、砂浜を裸足で歩いたあの日。
貝殻を拾い、笑い合った時間が胸の奥でじんわりと蘇った。
「うん、あのときは、まるで夢みたいだったね。」
冬の海は、春の海とはまったく違っていた。
波は荒く、白い泡が冷たく砕け散る。
空はどんよりと曇り、風は鋭く肌を刺す。
「でも、こんな冬の海も、悪くないよね?」
優奈が笑みを浮かべた。
「むしろ特別だと思う。あのときの温かさを思い出すから。」
美浦は小さく頷いた。
「私、正直言うと、冬は嫌いだった。寒いし、寂しい気がして。」
「でも、今は?」
「今は、ここにいるあなたがいるから、少しだけ好きになれそう。」
その言葉に、優奈も嬉しそうに微笑んだ。
波音に混じって、二人の笑い声が風に溶けていく。
海辺を離れ、二人は近くのカフェに入った。
暖かな空間の中、窓の外は冬の冷たい空気を映している。
美浦は湯気の立つカップを握りしめながら、ふと思い出したことを口にした。
「ねえ、優奈。これからも、ずっと友達でいてくれる?」
優奈は真剣な眼差しで答えた。
「もちろん。どんなに遠くにいても、時間が経っても、私たちは友達だよ。」
その瞬間、窓の外に鮮やかな虹がかかった。
冬の曇り空に、まるで魔法のように現れた色彩の架け橋。
「虹だ。」
美浦が声を震わせながら言った。
「虹は希望のしるし。これからもずっと、私たちの絆を守ってくれるよ。」
優奈は美浦の手を握り返した。
ふたりは静かに、未来の約束を交わしたのだった。
帰り道、冷たい風が再び吹きつけた。
けれど、美浦の心はどこか温かかった。
冬の海と虹が、これから続く二人の物語を優し