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第4話 卒業写真と、ふたりの場所

三月の風が、まだ冬の冷たさを残しながらも、どこかやわらかくなってきたころ。

川崎美浦と川井優奈が通う高校では、卒業式の準備が静かに進んでいた。

教室の掲示板には、卒業アルバムに使う写真が貼り出されていて、生徒たちがそれを囲んでにぎやかに笑っていた。

「ねえ、美浦ちゃん。私たちの写真、あったよ」

優奈が嬉しそうに指さした先には、文化祭でふたりが撮った一枚。

おそろいのエプロンをつけて、焼き菓子を手に笑っている自分たちがいた。

「……懐かしいね」

「うん。あのとき、みうが初めてクラスの出し物に参加してくれて、めちゃくちゃ嬉しかったな」

優奈は、あの瞬間の空気を思い出すように目を細めた。

そしてふと、口元を引き締めるように、真剣な声で言った。

「ねえ、美浦ちゃん。卒業したら、私、県外の大学に行くの」

その言葉に、美浦は少しだけ目を見開いた。

でも、驚いた顔をすぐに隠して、静かに頷く。

「そっか……。夢、叶ったんだね。すごいよ」

「ありがとう。……でもね、やっぱりちょっと怖い。

知らない土地で、ひとりで、新しい人間関係つくって……ちゃんとやっていけるのかって」

美浦は一歩だけ近づき、優奈の目を見て言った。

「大丈夫だよ。優奈なら、きっと大丈夫。

でも……もし寂しくなったら、すぐに連絡して。いつでも、話せるから」

その言葉に、優奈の目がほんの少し潤んだように見えた。

「……ずるいな、みうは。そういうときだけ、大人っぽい」

ふたりはそのまま、廊下の隅で、しばらく言葉もなく笑い合った。

***

卒業式の日。

体育館に並ぶ椅子と、咲き始めた桜のつぼみ。

空はどこまでも青く澄んでいた。

式のあと、クラスメイトたちが記念写真を撮り合う中、ふたりは静かに校舎裏へと歩いた。

そこは、一緒に帰るときによく通った、ふたりだけの抜け道だった。

優奈がふいに、小さな箱を取り出す。

「これ、卒業プレゼント。手紙、書いたの。あと、あのとき拾った貝殻も入ってる」

美浦は受け取って、胸にそっと抱いた。

「……ありがとう。私も、これ」

ポケットから出したのは、小さなフォトフレーム。

ふたりで撮った、春の海の写真が収められていた。

「……え、これ、いつの間に……」

「内緒。ずっと、渡したかったの。でも、タイミングがわからなくて」

優奈は写真を見つめたまま、ぽつりと言った。

「きっとこれから、いろんな人と出会うと思う。でも――

どれだけ時が経っても、私の“いちばんの友達”は、みうだよ」

「……私も。いちばん、大切な人」

その言葉に、優奈はふっと笑い、

「じゃあ、約束しよっか」と手を差し出した。

「また、春になったら――あの海に行こう。今度は、もっと遠い未来の話をするために」

ふたりは指切りをして、そっと手を重ねた。

まだ幼いままの言葉しか使えないふたりだけれど、

その中には、たしかな想いと、変わらない絆があった。

海と虹がつないだ約束は、今も、静かに輝いている。

――ふたりの物語は、春へ向かって続いていく。


つづく



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