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「初めまして、俺の名前は神黒ゼーレ。
2年前まで外国で過ごしていました。
日本に来てからは各地を転々しています。 よろしくお願いします。」
ニコーっと、効果音が付きそうなほどの 笑顔を浮かべているのは神黒ゼーレ。
実はゼーレという名前の死神である。
「それじゃあ、神黒は…霊園 哀の隣な。
霊園、頼んだぞ!」
「…分かりました。」
担任の言葉に反応したのは廊下側の1番後ろの席の女子。
7月下旬に俺が会った人間と同一人物だ。
「初めまして、霊園さん。」
着飾った笑顔でご挨拶。
「…初めまして、ではないんじゃないですか?」
鋭い指摘が1発。
「名前が一緒ですね。 」
正論が1発。
「お遊びですか?」
煽りが1発。
「HPはもう0だから止めてくて。」
「どうしてここに居るのか答えてください。 」
警戒心MAXで睨みつけられる。
なんで???まぁ、死神が人間界に紛れているからな。
怪しいよな。
「俺の美学だから。」
「意味が分かりません。お遊びなら、他所でやってください。」
「お前が死ぬ事を諦めてるからだよ。」
「……..。」
自分でも自覚しているのか。
そのあとは、沈黙を貫いて話にならなかった。
そうそう、俺がここに来る前、
トートに渡していた紙について説明しておこう。
タイトルは『人間界滞在許可申請書』。
その名の通り、人間界に留まる許可を上層部に申請する紙。
通常は旅行などに使われる。
それを仕事の度に出しているのが、俺。
だから…休みはゼロ。
自業自得だが、今に満足しているので後悔はない。
「おはよう、レイ。」
「…。」
「レイ、一緒に移動しよ?」
「…。」
「レイ、一緒にご飯食べよ?」
「…。」
「レイ、一緒に帰らね?」
「…。」
「終わりだ…。」
俺は人気のない校舎裏で項垂れていた。
原因はレイと全然、話せないこと。
「こんな事で諦めるなんて弱っちぃのネ!」
トートの文句は無視無視 。
近づいてくる気配がするな、と思ったら。
「…どうして、アナタがここに居るんですか。 」
レイが校舎裏に来た。相変わらずの無表情。
…死神って言った時は、嬉しそうだった癖に。
「レイが答えてくれないから、落ち込んでた。」
「…そうですか。」
ワンテンポ遅れて返事をしながら、レイは俺の前を通り過ぎ
奥にある蛇口を捻っていた。
「…何するんだよ。」
「さぁ、当ててみてください笑」
イタズラっぽく笑う人間に不覚にも…。
やっぱ、なんでもねぇ。
シャワーヘッドからは、水がサーっと降る。
その先は…
「俺っ?!」
「な、わけないですよ。後ろです。」
後ろへと視線を動かすと、コスモス、彼岸花、フジバカマなど。
9月に花をつける植物が花壇いっぱいに、咲き誇っていた。
「綺麗だな。」
「褒めることができたんですね。」
「なんだって??」
「冗談ですよ。私も綺麗だと思います。」
…恨めしいくらいに?
綺麗に咲いているのは、レイが毎日
欠かせない水をあげているからだろ?
「どうして、恨めしいなんて?」
零した言葉に気がついたのか。
「忘れてください。」
それ以降、口から続きが語られることは無かった。
うーむ、デジャブを感じる。
蛇口をキュッと閉め、ホースを片付ける。
「それでは。授業、遅れないでくださいね。」
それだけを残し、去っていった。
…調べてみるか。
「トート。」
「ずっと、いるのヨ。」
「レイの監視を頼む。」
「うわっ…。とうとう、ドスケベ野郎に成り下がるのネ。」
ゴミを見るような目で俺を見てくる。
「そんなんじゃねぇわ!!バカ悪魔!!」
俺は過去一、大きい声で否定する。
「死ぬ動機探しだよ。」
「分かったのヨ。」
頼み事をすると、トートはフッと消え、視界に写すことは無かった。
「1週間の記録なのヨ。」
「あざっす!!」
耳は、トートの声とキーボードを叩く音を拾う。
鼻は、上司が淹れているコーヒーの匂いを拾う。
目は、積み重なる目の前の紙を写す。
脳は、俺のいる場所が会社であると、判断する。
「ァ”ー…帰ってきてたのか。」
「状況把握がワンテンポ遅れてるのヨ。」
「で、目の前に積み重なる書類が…。」
「お望みどうり、事細かく調べてやったわヨ。
感謝するのネっ!!」
「おーおー。これで、なんか買っとけ。 」
金を渡すと、嬉しそうに出ていく。
我が契約悪魔ながら、チョロい。
「………。」
レイ、もとい霊園 哀。現在、高校生。
家族から虐待を受ける訳でもなく、
成績が悪い訳でもなく。
友人関係で悩んでいる訳でもなく。
むしろ、上手くいっている方だと思う。
順風満帆とまではいかないが、それなりにやっている。
死にたいと、思う理由が…
見つからなかった。
分からなかった。
理解できなかった。
-・-・-・-・-
「僕は、逃げたいんだ。」
「もう少し、頑張ってみようかな。」
「ありがとう…トート。
役立ずのゼーレに代わってw」
-・-・-・-・-
俺が担当した3件のターゲットにはそれぞれに
それぞれの物語があった。
“辛かった”
“頑張る理由が欲しかった”
“笑いたかった”
他人から見ればどうってことの無い人生でも
本人からすれば、何かしらある。
それをもう一度、胸に刻み
会社を後にした。
「そいじゃ、行ってきまーす。」
街を一望できる展望台がある場所に
俺はレイを呼び出した。
が。
来ることは無かった。
「なんでだ??」
「乙女心を勉強するのネ。」
「は??」
これで決着をつけようと思っていたのだが…。
仕方ない、家に行くか!!
「正気なノ?!」
「俺はいつだって正気だぜ?トート♡」
「1発叩かれるといいのネ。」
最近、トートが俺に対して冷たいような気がする。
そんなことを思いながらレイの家に到着。
飛べるっていいね。
窓から部屋の光が漏れていない。
留守か?とにかく、1度ノックをしてみる。
コンコン
「…反応がない。」
「入ったらいいじゃないノ。」
「それは流石に…。」
待っていても仕方がないので遠慮なく。
スッ…
「レイ?!」
床には睡眠薬が入った瓶が転がっている。
隣には、レイが倒れていた。
すぐに駆け寄って_
「どうして、助けようとするノ?」
「…は?」
トートが前に出て邪魔をする。
急にどうした。トート。
ついに暑さにやられてか?
「このまま、放っておけば勝手に死ぬノ。 」
何を、言っている?
「霊園 哀は何度も試そうとして結局、死んでないの。
ゼーレの美学には、反するかもしれない。
でも、死神に契約している悪魔として。
このまま死ねば、魂が狩れる。」
涙でいっぱいになった目を擦って、言葉を続ける。
「トートは悲しいノ。不安なノ。
ゼーレがバカにされること。
ゼーレに休みが無いこと。
ゼーレが…いつか倒れてしまう。」
トートは俺以上に、
契約した悪魔として。
相棒として。
友達として。
「…ありがとう、トート。
それでも俺は、レイを助けたい。
なんで助けた、って罵られるかもしれない。
もう、姿を見せるな、って絶交宣言されるかもしれない。
それでも、俺はレイに生きて欲しい。
死神として再開した時に話をしたいから。」
「…………本当に自己中心的なのヨ。 」
トートはそれだけ言って、後ろに移動した。
「心配してくれて、ありがとう。トート。」
細胞が1つでも生きてるならこっちのもんだ。
もう一度、目覚めてくれますように。
「死術_」