「良く聞くのだバストロよ、神が共に居ない事を嘆くってぇ…… あのな、お前それとんでもなく不敬な事なんだぞ? お前個人の所有物じゃないんだからな? 言ってる意味判るか?」
「はい勿論です! 完璧に理解していますとも! ですからこれからも共に居てくださいね、神様」
「いや全然判っていない、というか聞いて無いだろう、お前…… はぁ、そもそもだな、『神』としての存在だったらこの宇宙に溢れているんだぞ、いや正確に言えば、それこそ森羅万象あらゆる物が『神』なのだ」
「あらゆる? そうなのですか?」
「ああ、そうだっ、とは言っても、お前ら人間の腑にストンと落ちないだろう事位は、かつて短く無い時間をヒトと共に過ごして来た、いいや人を愛し、人に心服した我にとってはな、とうの昔に理解した事なのだがなぁ…… うーん…… 有り態(てい)に言えばなぁ、ホレ、そこらに落ちている石ころも塵もな、お前バストロもレイブも、明けに輝く朝日の光も、今吹き荒んでいる凶暴な冷気を叩き付け続けている北風だとしても、いやいや、それこそヴノの臭過ぎる排泄物であってもな、等しく『神』なんだよ、どうだ? バストロ」
「ええ、判りませんね、特にヴノの辺りが納得いきませんよ」
一切の躊躇無く答えたバストロに向けて、神様、というか僅(わず)か数え十歳のレイブはオーヴァーリアクション過ぎる感じで両腕を左右に広げて上げてみせ、やれやれと言った感じで答える。
「はあぁ~、んまあ仕方が無いかぁ~! 確かにな、お前の嗅覚が臭いと告げる、お前の視覚や聴覚が『ヤバイ』と教えて来る、その『本能』は大切なお前自身の財産だからなっ! 良いんじゃないかっ! だけどな、ちょっと視点を相手、今の例で言えばヴノの排泄物に移してみたらどうかな? ん、バストロ?」
「はぁ、どうやるんです?」
「例えばだ、排泄物ってヤツは取り込んだ食物を消化吸収した後の不要になった物質を糞(フン)や尿として体外に出す訳だよな? ここまで良いか」
「はあ、大丈夫です」
口調も表情もいつものレイブのそれとはかけ離れていたが、一切気にせずに返すバストロである。
気を付けて見ればレイブだけでなく、胸に抱かれたギレスラとペトラの口が同時に動いて言葉を合わせている事を看過出来たであろうが、今の所その気配は無かった。
レイブのスリーマンセルは言葉を続ける。
「排泄した本人にとっては無用であっても他の生物にとってはそうではない、昆虫や微生物、細菌などにとっては分解しやすいご馳走だ、彼らはヴノの排泄物の巨大さに感謝するだろうな、そうして大量に分解、つまり食べて排泄、又食べて排泄を繰り返した結果、植物が根を通して吸収可能なサイズの窒素やリン、カリウムにまで細分化されて出番を待つことになる訳だ…… 重ねて言っておくがヴノの排泄物の事だぞ?」
「……はい」
いつの間にかバストロは真剣そのものの表情を浮かべて返事も真面目なトーンだ。
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