魔術師は定期的に訪れる村落や集落で、仕事として近在に住み着いたモンスター討伐を依頼される事がある、と言うかほぼ全ての地で漏れなく願われるのだ。
あの村ではダークウルフを二頭、この村ではオークを三頭、次の集落では例年通りコカトリス五頭だろうな、そんな感じで請われるのである。
理由は単純明快だ、人々の親切心から来る施し、いいや、もう少し正確に言えばギブアンドテイクを期待する心から用意された依頼、詰まる所、打算である。
集落に生きる者達は、揃って親から子へ、生活に必要な魔法を伝授し続けている。
決して派手な効果を持つ魔法では無いが、近隣で増えたモンスターを駆逐する位の事は容易な事であったのだ。
例を上げれば、『耕作』スキルで軟化させた土を退けて穴を掘り、その手前に村の中で魔力量、生命力が多い村人を囮として立たせ、飢えによって殺到したモンスターを、深い落とし穴へと誘導し、落下し損傷を負ったモンスターの群れに対して、ある集落では総出で『着火』を、そしてある村では穴のエッジに子供たちまで並んで『散水』を、割と過疎化している少人数集落では簡単に『埋め土』で…… 日常的にモンスターを駆逐出来ていたのである。
だとしたら何故、わざとらしく見逃したモンスターの駆逐を魔術師に頼むのだろうか?
一つには既に言ってしまった施し、いま一つも同様に説明済みのギブアンドテイクである。
施し。
憐憫の思いからしか生まれない感情だ。
それはそうであろう。
魔力災害の生き残り、少年少女がやむなく選ばざる得ない職業、それこそが魔術師であったのだから。
成人前、スキルが生える前に石化の危機に曝されて、運良く生き残った子供達が他の選択肢を絶たれて付く職業が、魔術師なのである。
端的に言えば、魔解施術を受けた者は魔法が使えなくなる。
成人後で有ればその限りではないが、成長途中の子供たちであればほぼ例外なく、それまで普通に使えていた魔法行使力を失い、無力な弱者へと変わってしまう。
理由は定かでは無いが、魔解治療に用いられる、竜の鱗、他種族の魔力制御素材が体内に何らかの変異を齎(もたら)すせいでは無いかと言われている。
元々は自分たちと同じ、いいや、今の生き延びて通常の生活を送れている自分と比べて、あからさまに不遇な運命を背負ってしまった子供たちへの惻隠、それこそが施し、憐憫の理由であった。
壁の中に篭り、それでも尚ヒト、人間らしい生活を送る為に最低限必要となるのは生活魔法、それに他ならない。
暗闇に灯しを与え、乾燥期に清浄な水の潤いを与え、夕餉(ゆうげ)の食卓に温もりを加える炎の暖かさ、土に空気を含ませて耕し、器用な者が操る毒消しの魔法は、集落の未来そのものである子供たちを発熱や苦しみから救い続けてきたのである。
魔術師を選ばざる得なかった彼らは、村や集落で生きる、その手段を奪われた存在なのである。
自分達が等しく享受している、いわば、人間なら当たり前の能力を奪われ、その上で今尚生きている、そんな憐れんで然るべき存在だったのだ。
彼らが今後も生き延びる為に、出来る限りの協力をしたい、これが施しの理由に他ならなかった。
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