テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
k@
518
みーる
6
りるら
245
26
その棚の、一番左の上にあったバーモントカレーのカレー粉が入った箱を手に取って、値段を確認した
「げっ!!カレー粉10ドル??たっけぇ!!」
値札を確認した竜馬はがっかりした、しかしずっとここに来てからカレーライスが食べたかった、お母さんの作ったカレーライス・・・あれなら自分でも再現できる
生きていた頃の母は、カレーをいつも大鍋で炊いて、それを2~3日かけて家族で食べていた、一日目はカレーライス、二日目はそれにトンカツをつけてカツカレーに・・・そして3日目はカレーうどんになるのだ、竜馬はクスクス思い出し笑いをした、「三日間もカレーなんて手抜きだ」とよく父と一緒に母に文句を言ったものだった
途端に目にじわっと、涙が溢れて来た・・・
どうしてあんなひどい事が言えたのだろう・・・ごめんね・・・母さん
。 .:・.。. .。.:・
竜馬は手の拳で涙を拭き、心の中で温かい母の笑顔を思った、そしてやっぱり、カレーライスを作る事にした
カレー粉と野菜、そして真空パックの冷凍の米を買ったら、手持ちが無くなったので、肉は買うのをあきらめた、思ったより物価が高いので驚いた、ビニールの黄色い袋をカサカサいわせて、来た道を戻った
「カルロス!キッチン借りるよ!」
リビングにいるカルロスからはいびきで返事が返って来た、薄汚い三口コンロの下に、赤いホーロー鍋を見つけた、竜馬は鍋を丁寧に洗い、カレーを作り始めた、じゃがいもの皮を剥く時に、包丁で指を少し切ったが、野菜を綺麗にカットして、全て鍋に入れて煮込み、カレールーを投入すると、まずまずの出来の、カレーが鍋一杯に出来た
冷凍の米をレンジで温め、皿に盛り、その上にカレーをたっぷり乗せた、カレーライスと、きっと飲み続けたら体を悪くするだろうと思うほどの、風邪シロップのような色がしている炭酸飲料の瓶が乗った、トレーを両手で持って、足で部屋のドアを開ける
ベットの上であぐらをかいて腹いっぱいカレーを貪った、そこで人間の三大欲が、生きるエネルギーになるのだと実感した、美味しいものを腹一杯に食べたら、明日学校でやる予習をしておこうという気になった
竜馬は良い成績で大学に進学したかった、そして沢山作ったカレーは、まだ2~3日分はたっぷりある
明日は良い日になると、単純に竜馬は希望を持った
。 .:・.。. .。
次の日・・・竜馬は急いで学校の帰り道、マウンテンバイクを走らせていた、カレーは二日目が美味しいと母から教わっていたからだ、一日一回、カレーを火にかけて温めたら、いつでも美味しく食べられる、冷凍の米もまだ2~3日分ある、今日もあの美味しいカレーを食べよう!カルロスのゲロの匂いがするピザなんか誰が食べるもんか!
マウンテンバイクを納屋に投げ飛ばし、意気揚々とキッチンに入って行った、すると朝、三口コンロに置いてあったカレーの入った鍋がそこにはなかった・・・焦ってキッチンを探してもどこにもなく・・・竜馬がリビングに入って行くと、ソファーのテーブルに空になった赤い鍋はあった
鍋の中のカレーはきれいさっぱり無くなっていた・・・そこにカルロスが小指で歯をほじりながらやってきた
「よぉ!!お前の作った料理はなかなかイケるな!また作ってくれよ!」
途端に怒りが竜馬の中で血液のように全身めぐる
「どうして全部食べるんだよ!!せっかく僕が作ったカレーなんだぞ!!」
竜馬はカルロスに向かって怒鳴った、カルロスは苛立ってため息をつき、ずる賢い目を険しく細めて言った
「メシはちゃんと毎日与えているだろう」
「あんな反吐みたいなピザ食えるわけないだろう!!」
こんな風につっかかるように言ってはまずかったと後でわかることだが、純粋な竜馬はそんな事お構いなしで、怒りを露にした
ニヤリとカルロスが笑った気がしたが、途端に芝居くさく、胸に手を当てて悲痛な声で彼が言った
「OH!今の言葉は傷ついたぜ竜馬!ホストファミリー協会に通報しないとな、お前が俺に暴言を吐いたと、俺はこんなにお前の事を考えてやってるのに!」
「言えよっ!僕もここに来てから不満ばかりだ!!それを全部ぶちまけてやるっっ!!」
竜馬は家を飛び出し、プリプリ怒ってマウンテンバイクで、そこら中を走り回った
―カルロスは人間のクズだ!!くそやろうだっ―
。 .:・.。. .。.:・
ふくれっつらをするティーンエイジャーはいくらでもいる・・・そもそもティーンエイジャーというものは、世の中すべて自分の思い通りにならないとすねる癖に、自分では何も出来ないと、大人は思いがちで、彼らの意見を真剣に取り合おうとしない
カルロスもまさにその典型的な大人だった、まだ子供なんだから・・・コイツらのいう事はただの戯言だと思っている、食事を与え、部屋を与え、水や火を使わせてやっているこっちのほうが偉いんだと、態度に出ている、悔しい事に・・・その通りだ
一郎さんに電話をして、何もかもぶちまけようかと思ったことも何回もあった・・・しかし口の上手いカルロスが、電話口で一郎に自分の都合の良い解釈で話すのが簡単に想像できた
―ええ・・・竜馬君は少し繊細な子で・・・学校の悪い友人から影響を受けているようで、私にとても反抗的で、実際私も困っているんですよ・・・―
。 .:・.。. .。.:・
そうなった時に大人は大人の言う事を信じるものだ、竜馬の訴えはただの反抗期の表れとみなされ、時間が経てば、落ち着くものと思われている
そしてカルロスを観察していて分かったことだが、カルロスの本性はイリノイ州シカゴ一ひどい男なのだろうけど、ホストファミリー協会に任命されるぐらい、上っ面は愛想が良く、その気になれば善人の仮面をかぶることができる男だ
グルグル街をマウンテンバイクで走り回り、行き場のない怒りをどこへぶつければいいか分からなくなっていた・・・やがて疲れ果て・・・草原に座り込み、平行線に沈んで行く惑星ほどもある大きな太陽を・・・竜馬はしょんぼりと見つめていた
―本当に地の果てに自分はいるのだ・・・―
。 .:・.。. .。.:・
あの全身全霊で自分を求めてくれて、大事にしてくれていた少女とこんなにも離れている・・・そして竜馬はこうも考えていたホストファミリー協会や、一郎さんから仕送りされている竜馬の生活費は、カルロスのクローゼットに入りきらなくなっている、オーダーメイドのウエスタンブーツに、代わっているのではないかと・・・
先日も、何でも本物のアリゲータークロコダイルでオーダーメイドしたブーツで800ドルもしたと、竜馬に自慢していたからだ
イリノイの太陽が沈むのは早い・・・そしてこの辺りで丸腰の少年が暗くなってもウロウロするほど恐ろしい事はない・・・
仕方がなく、無力の少年はカルロスの家に帰るしかなかった・・・カルロスは相変わらずリビングのソファーにドカッと座り、リモコンでテレビのチャンネルをカチャカチャ変えている
竜馬はいつかあのリモコンを隠してやろうかと考えていた、せめて冷凍の米だけでもお握りにして食べようと、冷凍庫を開けると・・・米もきれいさっぱり無くなっていた
怒りに燃えて思わず竜馬は冷凍庫を拳で殴ってしまった、そこで気が付いた・・・
リビングにいるカルロスにこれも「竜馬君は機嫌が悪いとモノに当たる子だ」とホストファミリー協会に「告げ口ポイント」を稼がせたのだと・・・
コメント
1件
うわぁ…辛いな。母さんのカレーを思い出しながら、限られたお金と食材で一生懸命作ったカレーを、カルロスに全部食べられちゃうなんて。しかも「告げ口ポイント」を稼がれてるって気づいたラストがまたやるせない。「どうしてあんなひどい事が言えたのだろう」って後悔するところに、竜馬の優しさが溢れてて胸が締め付けられたよ。無力さを噛みしめながらも、また明日を生きようとしてるのが伝わってくる…。