テラーノベル
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その日、阿部と渡辺は二人でグルメ番組の撮影をしていた。
撮影は順調に進み、スタッフが機材の調整を始める。
「十五分休憩でーす。」
その声が響くと、阿部は立ち上がった。
「翔太。」
「俺、お手洗い行ってくる。」
渡辺も立ち上がる。
「じゃあ俺も。」
二人はスタッフに一声掛け、近くの公園の公衆トイレへ向かった。
渡辺はスマートフォンを衣装の大きなポケットへ入れながら歩く。
「今日は暑いな。」
「うん。」
「ロケあと少しで終わるし頑張ろう。」
「そうだね。」
何気ない会話を交わしながら、二人はお手洗いを済ませる。
帰り道。
人通りの少ない細い道へ差しかかった時だった。
「……。」
前方から数人の男たちが歩いてくる。
どこか嫌な空気を感じ、渡辺は小さく眉をひそめた。
男たちは二人の前で立ち止まる。
「君たち。」
「ちょっといい?」
阿部は警戒しながら一歩後ろへ下がる。
「すみません、仕事中なので。」
そう断り、横を通り抜けようとした瞬間だった。
男の一人が阿部の腕を強くつかんだ。
「っ……!」
「離してください!」
阿部は必死に腕を振りほどこうとする。
「やめろ!」
渡辺がすぐに間へ入る。
しかし男たちは阿部を無理やり引き寄せようとした。
もみ合いになった拍子に、阿部は地面へ倒れてしまう。
その瞬間――
左足首に鋭い痛みが走った。
「……っ!」
男の手が阿部のアンクレットを乱暴に引きちぎる。
金属が切れる音と同時に、足首が大きく切れた。
白い肌を赤い血が伝い、地面へと落ちる。
「あべっ!」
渡辺の目に映ったのは、血を流す阿部の足だった。
その光景を見た瞬間、頭に血が上る。
「ふざけんな!」
渡辺は男へ飛びかかろうとした。
だが、その前に別の男が立ちはだかる。
勢いよく殴られ、渡辺は強い衝撃を受けて地面へ倒れた。
視界が揺れる。
耳鳴りが響く。
「翔太!」
阿部は叫ぶが、身体が震えて動けない。
恐怖で足に力が入らなかった。
意識が遠のいていく渡辺は、ぼやける視界の中で阿部が連れて行かれる姿だけを見た。
「あべっ……。」
その声は届かなかった。
男たちは素早く二人を黒い車へ押し込む。
ドアが閉まる音が響く。
エンジンがかかり、車は勢いよく走り出した。
狭い車内。
阿部は血の滲む足首を押さえながら、ぐったりとした渡辺を抱きしめる。
「翔太……。」
震える声で何度も名前を呼ぶ。
返事はない。
阿部は唇を強く噛んだ。
(お願い……。)
(誰か、気づいて。)
その願いを乗せたまま、車は街の中へ走り去っていった。
___________
目黒と宮舘はラジオの収録を終え、変装をして局をあとにしていた。
「このあと時間あるし。」
目黒が車のエンジンをかけながら言う。
「あべちゃんたち、近くでロケだったよね。」
宮舘は穏やかに頷く。
「少しだけ様子を見に行こう。」
「邪魔にならない程度に。」
「うん。」
二人はスタッフにも伝えず、お忍びでロケ現場へ向かった。
___________
現場近くのコインパーキングへ車を停める。
「ここから歩こう。」
目黒が車を降りる。
宮舘も後に続いた。
「あべちゃん驚くだろうな。」
目黒が少し嬉しそうに笑う。
その時だった。
「……目黒。」
宮舘が立ち止まる。
「どうしたの?」
目黒も足を止める。
地面に、小さく光るものが落ちていた。
宮舘がゆっくり拾い上げる。
「これは……。」
目黒の顔色が一瞬で変わる。
「あべちゃんの……。」
それは阿部が毎日大切に身に着けていたアンクレットだった。
目黒は震える手で受け取る。
切れた金具。
無理やり引きちぎられたような跡。
「なんで……。」
そして、そのすぐ近く。
アスファルトには赤黒い血痕が点々と残っていた。
目黒の心臓が大きく跳ねる。
「……血。」
宮舘も表情を引き締める。
「量は多くない。」
「でも。」
「普通じゃない。」
目黒はアンクレットを強く握り締めた。
「急ごう!」
二人は走り出した。
___________
ロケ現場へ着くと、スタッフたちが慌ただしく動いていた。
目黒は息を切らしながら駆け寄る。
「あべちゃんは!?」
スタッフは驚いた表情で二人を見る。
「目黒さん!?」
「どこ!?」
スタッフは困惑したまま答える。
「休憩中に二人でお手洗いへ行ったまま戻ってこなくて……。」
「電話も出ません。」
その言葉を聞いた瞬間。
目黒と宮舘は顔を見合わせた。
「GPS。」
「確認しよう。」
目黒はすぐにスマートフォンを開く。
阿部との位置情報共有アプリ。
「あべちゃんは……。」
画面を見る。
位置は現場。
まったく動いていない。
目黒はすぐに気づいた。
「スマホ。」
「バッグの中だ……。」
阿部はロケ中、荷物をスタッフへ預けることが多い。
だから位置情報が動かない。
「くそ……!」
目黒は悔しそうに唇を噛んだ。
その横で宮舘が自分のスマートフォンを確認する。
渡辺との位置情報。
「……待って。」
「……動いている。」
「え?」
目黒も画面をのぞき込む。
小さなアイコンが、道路を少しずつ移動していた。
「翔太、スマホ持ったままだ。」
宮舘の声は落ち着いていたが、その手はわずかに震えていた。
画面の位置はどんどん現場から離れていく。
車で移動しているような速度だった。
「連れ去られた……。」
目黒が呟く。
その場の空気が一変する。
スタッフの一人が震える声で言った。
「警察を呼びます!」
別のスタッフはマネージャーへ連絡を始める。
現場は一気に騒然となった。
目黒は必死に渡辺の位置を見続ける。
「頼む……。」
「あべちゃん……。」
宮舘も画面から目を離さない。
「翔太。」
「無事でいて。」
渡辺のスマートフォンだけが、道路を走り続けていた。
それは二人が残してくれた、たった一つの手がかりだった。
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kaede🍁
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コメント
1件
うわ……これは心臓にくる……(じわじわ) アンクレットが引きちぎられて血が滲む描写、あの瞬間の痛みがすごく伝わってきた。位置情報だけが動く切なさ、目黒と宮舘が走り出すシーンも胸が苦しい。闇の始まりが丁寧で、引き込まれた。続き、受け取りたいです。みらさんの言葉、ちゃんと受け止めますね。