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「ねぇ、私、酔ってしまったみたい…」
花の香りと共にふわりと僕の顔をくすぐる柔らかい髪。
色のある声が聞こえたかと思うと同時に胸にその声の主が寄りかかっていた。
待っ…待って頂きたい。
暗転からの目覚めに、この光景。
僕にはさっぱり意味がわからない。
記憶喪失からのエラーからの暗転のこの状況に固まらない人間がいるだろうか?
僕はどこで何をしていてこの女性に抱きつかれているのでしょうか?
この僕の問いに、誰が答えられる人は、いませんか?
………。
いませんね…。
僕は状況把握を少しでもする為に眼球をあらゆるところにできるだけ素早く、走らせた。
世界は夜。
月明かりに照らされたバルコニーで、そよぐ風は心地よい秋風の様な温度。
僕の目の前に迫る女性の顔は見えず、高貴なドレスを身にまとい、それは眩しいくらいの赤だった。
ふわりと揺れる髪はブロンド。
ブロンドの隙間から覗く白い肌。
抱きつかれる僕の服は女性のドレスに引けを取らないくらいの立派な装いであった。
女性に拘束された状態から知れる情報はこれぐらいだろうか…
さて…どうすればいい…?
女性は僕になんと言ったのか?
お酒に酔ったと言ったような…
それで…それで…?
こういう場合、あらゆる対応が、選択肢が引き出しに潜んでいるはずなのだろうけど、今の僕には一つしかなかった。
答→逃げる
その一択!
だけどここでまた新たな問題が一つ。
どこへなんと誤魔化して逃げると正解か?
思考を巡らせすぎたのか、女性は僕の顔を上目遣いで見てきた。
はたと目があった。
きっと、不審に思われてしまったに違いないと僕の身体は強張った。
しかし、そんな心配も余所に女性は色のある声で言葉を再び紡いだ。
「一目で貴方に惹かれてしまいました。夜の魔力でも酔いの瞳でも夜明けが訪れてもワタクシに狂いはなく、貴方と時を重ねたいと思うこの心を貴方は遠ざけたいと思われるのでしょうか?」
懇願と色が交ざるその真っすぐな瞳は、僕の瞳の自由をしっかりと囚えていた。