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練習場で祐希を見つけた瞬間、達宣の顔は自然と明るくなった。
「祐希さん、おはようございます!」
「おはよう、大塚」
いつも通りの挨拶。
いつも通りの声。
祐希は、何も変わっていないように見えた。
昨日、あんなことを言ったのに。
達宣はちらりと祐希の顔を見た。
(……ほんとに普通だ)
いや、普通でいい。
むしろ、普通じゃなかったら困る。
でも、ほんの少しくらい意識してくれてもいいのに。
そこまで考えて、達宣は自分の考えにびっくりした。
(えっ、何それ!?)
自分から近づきたいと思っているくせに、相手にも意識してほしいなんて。
わがまますぎる。
「大塚?」
「は、はいっ!」
「どうしたの?」
「なんでもないです!」
祐希は少し不思議そうにしたけれど、深く聞かなかった。
「そっか。じゃあ、あとでね」
「……はい!」
祐希が離れていく。
達宣はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。
もっと話したかった。
でも、いざ話すと、昨日のことを思い出してしまう。
どうしたらいいのか、自分でもよくわからなかった。
そして休憩時間。
達宣は、飲み物を持って座っている祐希を見つけた。
周りには、ほかの選手もいる。
けれど、今は誰も祐希に話しかけていなかった。
(……今なら)
達宣は少しだけ迷ったあと、祐希の隣へ向かった。
「祐希さん、隣いいですか?」
祐希は顔を上げた。
「もちろん」
達宣は隣に座る。
いつもと同じ。
……のはずだった。
今日は、いつもより少しだけ近い。
肩が触れそうな距離。
祐希は気づいていた。
達宣が普段より近くに座っていること。
何度かこちらを見て、何か言いたそうにしていること。
でも、何も指摘しなかった。
達宣が自分から来てくれた。
今は、それだけで十分だった。
「……祐希さん」
「うん?」
「昨日のこと、覚えてます?」
祐希は一瞬、目を瞬かせた。
「昨日?」
「……その、帰り道の」
「ああ」
祐希はすぐに思い出した。
けれど、達宣がどういうつもりで聞いているのかはわからない。
だから、落ち着いた声で答えた。
「覚えてるよ」
達宣は、手元の飲み物を見つめた。
「……あの」
「うん」
「……俺、うれしかったです」
祐希の指が、ペットボトルの上で止まった。
「……何が?」
聞き返す声が、少しだけ柔らかくなる。
達宣は耳を赤くしながら、ぼそぼそと続けた。
「……祐希さんが、俺と話したいって思ってくれてたこと」
一度、言葉を切る。
それから、思い切って顔を上げた。
「……妬いたって言ってくれたのも」
祐希は、しばらく黙っていた。
達宣は不安になったのか、慌てて付け足した。
「あっ、いや、変な意味じゃなくて! なんか、その……」
「うん」
「……俺ばっかり、祐希さんと一緒にいたいって思ってるんじゃないんだなって」
最後は、ほとんど聞こえないくらい小さな声だった。
祐希は、ゆっくり息を吐いた。
胸の奥が、いっぱいになる。
達宣は、自分がどれだけうれしいことを言っているのか、わかっているのだろうか。
「……大塚」
「はい」
「俺も、大塚と一緒にいたいよ」
迷いのない声だった。
「話したいし、会いたいし。……できるなら、もっと一緒にいたい」
達宣の顔が、みるみる赤くなっていく。
「……っ、そ、そういうの……」
「うん?」
「……急に言わないでください……」
祐希は笑いそうになった。
でも、達宣が勇気を出して聞いてくれたことがわかっていたから、からかうのはやめた。
「ごめん」
「……絶対、思ってない……」
「ふふ」
「ほらぁ!」
達宣は祐希の肩を軽く叩いた。
そのあと、少しだけ迷ってから。
そっと、祐希の腕に自分の腕を寄せた。
ほんの少し触れるくらい。
祐希は気づいた。
もちろん、気づかないはずがなかった。
けれど、何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ達宣のほうへ体を傾けた。
達宣はそれに気づいて、安心したように笑った。
(……よかった)
近づいても、嫌がられない。
甘えても、困らせない。
祐希は、ちゃんと受け止めてくれる。
そのことが、うれしかった。
憂海歌
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Haru
740
心
745