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今まさに命を奪われようとしていたマリアは、呆然とその光景を眺めていた。

マスケット銃を構える狼獣人達の隊列に小柄な少女が飛びかかり、光輝く刃を一閃させると狼獣人達が光の粒子となりその存在を抹消する。

だがそのある種幻想的な光景を見てマリアが感じたのは、凄まじい嫌悪感であった。

「……!?何が起きた!?」

突然仲間が消されて狼獣人達は戸惑いを見せるが、それが最大の隙となった。シャーリィはその隙を逃さず再び魔法剣を振るう。最初の攻撃で難を逃れた他の狼獣人達も同胞の後を追うように消滅せられた。

「始めやがったな!見ての通りだ!さあやるぞ!」

「攻撃目標狼獣人!一人も逃がさないで!」

シャーリィの行動を見たベルモンドはルイスと共にシャーリィの下へ走り、リナ達『猟兵』は一斉に狼獣人へと襲い掛かる。

突然現れたシャーリィ達に教会一団も困惑するが、直ぐに状況を有利に運ぶべく指示が飛ばされる。

「狙うのは狼獣人だけだ!エルフや人間を間違っても攻撃するんじゃないぞ!」

「死霊騎士団下がれ!潜んでいる敵はエルフ達に任せよう!お嬢様を護れ!二度も不甲斐ない結果を招いてしまった!」

潜んでいた狼獣人達は、リナ率いるエルフ達に次々と討ち取られた。

「なんだと……!?あいつらか!!」

全てを台無しにされた事に気が付いたガルフは、シャーリィ達を直視する。そして亜人故の本能か、シャーリィの持つ力が脅威となることを敏感に感じ取っていた。

「新しく現れたあの小娘を始末しろ!急げ!|エルフ《耳長》の奴らは後回しで構わん!」

このガルフの判断は決して間違いではない。だが正解でもなかった。

「押し返せーーっ!!俺に続けぇーっ!!」

同様が走ったのを見抜いたロイスは一気に反撃を開始。ロイスの檄に従い教会一団も一斉に反撃に移る。

これにより乱戦に持ち込んでいた狼獣人達は総崩れとなった。

「ちぃ!何がどうなって……!?てめえは、あの時のなり損ない!」

ある狼獣人は味方が総崩れに成るのを木の上から眺めていたが、そんな彼の前にアスカが姿を表す。

それは黄昏で彼が勧誘した少女であった。

「……」

アスカはなにも言わず、無表情のまま短剣を無造作に構える。

「いい気になりやがって!てめえみたいな半端者に俺が負けるわけ無ぇだろうが!!」

その態度が気に入らなかったのか、狼獣人は激怒して立っていた枝を蹴り、一気に跳躍。アスカに向けて飛び掛かる。

事は一瞬で終わるはずだった。だが。

アスカは枝の一つにぶら下がると勢い良く履いていたサンダルを飛ばす。

そしてそれは不意打ち気味に狼獣人の顔面に直撃した。

「ごっっ!?目潰し!?ふざけた真似を!」

一瞬視界を封じられ、慌てて周囲を見渡したがアスカの姿は見当たらず、已む無く近くの枝に着地。

だがその枝にはアスカがぶら下がっており、身体を前後に揺らして逆上がりの要領で足を振り上げ、足の指でしっかりと握った短剣を狼獣人の足首に突き立てた。

「ぐぉっ!?てめえ!いつの間に!待ちやがれ!」

鋭い痛みに怯みながらもアスカに手を伸ばすが、既にアスカは枝から手を離して自由落下しながら離脱。

「取り逃がしたか!逃げたな、なり損ない……めっ……!」

そんなアスカを嘲笑しようとするが、そこで彼の命は幕を閉じた。足を切られて自慢の機動力を奪われた狼獣人など、森林戦に長けたエルフ達の良い的でしか無かったのである。

四方から飛来した矢が三本両目と眉間を綺麗に貫き、肉体は痙攣を起こしながら地面へと落下していく。

「お疲れ様」

「……ん」

先に落ちたアスカはリナがしっかりと抱き、事なきを得た。狼獣人の失態は、アスカの身軽さを読み違えたこと。そして何より彼女が一人で行動していたわけではないことに気づけなかった事にあった。

「掃討戦に移行します!一人も逃がしてはなりません!」

シャーリィの言葉にエルフ達は狩りを楽しむように次々と狼獣人達を討ち取り、平野では教会一団が乱戦に持ち込んでいた狼獣人達を片っ端から始末していった。

その様を見てガルフは半ば混乱状態に陥る。あと数秒あれば、任務を達成できた。たった数秒で全てをひっくり返されたのだ。

その衝撃が彼の判断力を奪い。

「ごきげんよう、指揮官さんとお見受けします。そしてさようなら」

呆然と立ち尽くす事しか出来なかった彼は、浮遊したまま風魔法で一気に加速したシャーリィの手によって、胸を魔法剣で貫かれた。

「ふざけるなぁあっ!我々は!今まさに始まろうとしていたのだぞ!?まだスタートラインに立ったばかりなのに!まだ始まってもいないのに!こんな終わりであって……堪るかぁああっ!!」

ガルフの悲痛な叫びが『ロウェルの森』に木霊するが、そのまま彼は粒子となって消滅する。

そこに一切の慈悲は無かった。

「私の大切なものを奪おうとした時点で、あなた方の終わりは確定していたのです。恨むなら、私達に勝てなかった自分の非力さを恨んでください」

そんな彼に対してシャーリィは無表情のまま、一切の感情を感じさせぬ口調で言葉を手向けた。

「ガルフさんがやられた!?げぁ!?」

「に、逃げろぉ!ぎゃあああっ!?」

その叫びを聞いた狼獣人達は逃げようとするが、バラバラににげてしまい、エルフ達に各個撃破されていった。

「ぬんっっ!!」

「うぉおおおおっ!!!」

ゼピスが槍で狼獣人を串刺しにし、ロイスは力任せに大剣を振るい残された狼獣人達を次々と始末していく。

「そらよっと」

「てめえ!シャーリィを狙いやがったなぁ!?」

最後の狼獣人は何を思ったのかシャーリィに襲い掛かり、ベルモンドの峰打ちで勢いを無くし、激昂したルイスに股から脳天までを槍で串刺しにされて果てた。ここに狼獣人二百名例外無く死亡。掃討戦は終了した。

「隊列を整えろーーっ!!」

教会一団は再び隊列を整える。

そんな中、遠目にシャーリィを見たダンバートは嫌な予感を感じていた。

「あー……助けられたんだから、やっぱり礼はしないといけないよなぁ……?」

「当たり前よ、ダンバート。でもあの光……すっごく不快だった。言葉にするのは難しいけど……今すぐに消してしまいたいくらいに」

珍しく不快な表情を浮かべるマリアを見て、ダンバートは内心溜め息を吐く。なぜならその不愉快な感情は間違いなく『魔王』としての力が『勇者』の力を拒絶しているからである。

一方、リナに周囲の偵察をお願いして教会一団と接触しようと考えていたシャーリィだったが、改めて遠目にマリアを見ると身体の内側から一気に溢れる感情に困惑していた。

『殺せ!殺せ!あの女を殺せ!魔法剣を突き立てろ!』

脳裏に響く言葉は、シャーリィが昨日耳にしたものと同じであった。

「勇者様……?」

「どうした?シャーリィ」

困惑するシャーリィを心配そうに気遣うルイス。そしてベルモンドは途方もなく嫌な予感がして顔をしかめた。

魔王と勇者の時を経た運命の再会は、間も無く果たされる。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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