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狼獣人達を殲滅したシャーリィ達とマリア一行は、泉のある平原にて対峙していた。
「友よ、あの少女はまさか……」
「ああ、報告に挙げていた娘だよ。この距離でも分かるだろう?あの眩しい光属性」
「ああ、分かるぜ。あれは間違いなく勇者だ。何の因果だろうな」
シャーリィを見て魔族、魔物達は勇者の力を感じ取り警戒を露にしていた。
対するシャーリィも。
「こりゃまた壮観だな。こんなに群れたゴブリンやオークは見たことないな」
「それに、顔付きが違います。この集団を相手にするのは避けたいですね」
「それを決めるのはシャーリィだ。シャーリィがやるって言うなら死ぬ気で頑張るだけだ」
双方が警戒を露にする中、渦中の少女二人は行動を開始する。
「ダンバート、旗を持って付いてきて。皆はここで待機!」
「わかった、任せて」
「お嬢様、お気を付けて」
『聖光教会』の旗を持ったダンバートを伴ってマリアが進み出る。
それを見たシャーリィもまた、それに呼応する。
「ベル、付いてきてください。他の皆さんは待機を」
「あいよ」
シャーリィもまたベルモンドを伴い前に進む。双方は互いに歩み寄りながら、五メートルほど距離を開けて立ち止まる。
ベルモンド、ダンバートは共に護衛として相手の一挙一動に目を光らせていた。
最初に口を開いたのはマリアであった。
「『聖光教会』のマリア=フロウベルと申します。この度のご助力に心からの感謝を。あなた方に命を救われました」
胸に手を当て深々とお辞儀をするマリアを見て、シャーリィもまた答える。
「先程の戦いに介入したのは此方の都合によるものであり、あなた方に与えた結果は副次的なものに過ぎません。感謝は必要ありません」
何処か突き放すような言い方をするシャーリィに、ベルモンドは視線を向ける。
「それでも感謝しているのは事実です。出来れば貴女のお名前を伺いたいのですが?」
「名乗るほどのものではありません。と言いたいのですが、貴女は身分を明かした。それに応えねば礼を失した行為となります」
「では?」
シャーリィはスカートを摘まみ優雅に一礼する。それは、貴族令嬢としての礼であった。
「シャーリィ=アーキハクト伯爵令嬢がマリア=フロウベル侯爵令嬢にご挨拶申し上げます」
その気品に溢れた礼は、マリアを驚かせ、そして双方の素性を理解するに至る。
「アーキハクト伯爵家のご令嬢……!?九年前に亡くなられたのでは!?」
「色々ありまして、この様に生きています。フロウベル侯爵家のご令嬢ともあろう方が『聖光教会』に身を寄せているのは不可解ですね」
「貴女の言葉を借りるなら私も色々ありまして。先ずはご無事で何よりでした。帝国貴族の一員として心から祝福を」
マリアもまた優雅に一礼する。表面だけ見れば和やかな会話であるが、双方の胸中にあるのは凄まじい嫌悪感と不快感であった。
「事情があるのはお互い様と言うこと。貴女の生存は私の胸に閉まっておきますね。シャーリィ様……」
「シャーリィとお呼び捨てを」
「では、私もマリアと。改めて、礼を言わせてください。助けてくれてありがとう。アーキハクト伯爵は義に厚いお方と伺ったことがあります。その意思はご息女である貴女にしっかりと受け継がれているのですね」
笑みを浮かべるマリアをじっと見つめるシャーリィ。
「貴女にも事情があるとお見受けします。もし宜しければ解決のために手だてを……」
「マリア」
シャーリィがマリアの言葉を遮る。それは貴族社会において礼を失した行為である。
「なにか?」
だがマリアは気にせずに言葉を待つ。そしてシャーリィの口から出た言葉は、とても友好的ではなかった。
「お互い、無理をするのはやめましょう」
「えっ?」
「私は今この瞬間も不快感を感じ続けています。具体的には今すぐ貴女を殺してしまいたいくらいに」
「っ!?」
「お嬢様!」
シャーリィから発せられた凄まじい殺気に、ダンバートがマリアの前に飛び出す。同時にベルモンドが大剣に手を掛けながらシャーリィの前に出る。
「お嬢、らしくないな。どうした?」
「不愉快極まりないのです。今すぐに殺せと言葉が響くのです」
殺気を隠そうともしないシャーリィ。それを受けてマリアもまた鋭い視線を向ける。
「貴女の言う通りです。私も貴女のあの力を見て、感謝よりも先に激しい嫌悪感を感じました。全てを消し去る傲慢な力を持ち、それを振るうことに躊躇しない貴女を軽蔑しました」
互いににらみ合い、一触即発と思われたが。
「「ふぅ……」」
同時に息を吐き、纏っていた殺気を消してしまう。
「個人的な感情は後回しにします。マリア、私達の目的は同じだと考えますが、違いますか?」
「スタンピードの原因を取り除く、ね?間違いありません。今回のスタンピードは人為的に起こされたものよ」
「やはり。元凶は?」
「獣王ガロン。古に勇者と魔王によって封じられた獣人族の王。何らかの原因で封印が解かれて、そして復讐のために動き始めた。私達はそう解釈してるわ」
マリアの言葉を聞き、シャーリィは溜め息を吐く。
「はた迷惑な存在ですね。どれだけの犠牲を払ったと思っているのか」
「シャーリィ。貴女、あの町の関係者?」
「正しくは創設者です。群れを相手にする羽目となり、撃破しましたが甚大な被害が出ましたよ」
「それは……お悔やみを申し上げます。祈るくらいはさせて」
「好きにすれば良いです。それで、その獣王とやらは何処に?」
「この先の遺跡で待ち構えているはず。私達の調べでは、完全復活は果たせていない。つまり」
「滅ぼすのは今しかないと言うことですね」
「出来れば対話で終わらせたいと思っているのだけれど」
マリアの願いを聞いたシャーリィは、あからさまに溜め息を吐く。
「はぁ、トチ狂ったことを言わないでください。先に手を出したのは彼方です。そして既に被害が出ました。この時点で和解はあり得ません。するつもりもない。今度は封印では無く跡形もなく滅ぼすのみです」
「暴力以外にも解決策があるはずよ!」
「相手は暴力で訴えたのです。暴力には暴力で対抗するしかない。なにより、彼は私の敵です。そして、敵は残らず殲滅しなければなりません。でないと、私の大切なものを護れない」
「そんなことは!」
「そこまでにしようよ。議論は獣王の問題を解決してから、だね?」
二人の間にダンバートが入って諌める。
「だな。お嬢、早く済ませて帰ろう。妹さんが待ってるぞ」
「ごめんなさい、ダンバート」
「そうでした。レイミを待たせてはいけません。マリア、共闘すると言うことで構いませんね?」
「ええ、構わないわ」
「なら一時共闘で」
二人は握手を交わすが、互いに力を込めているのが見て分かる。
それを見てダンバート、ベルモンドは溜め息を漏らす。
マリアとシャーリィ。初対面はこうして終わりを告げるが、二人は根本的に相容れない存在であることを互いに正しく認識していた。