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5件
好き
( 'ω')フオオオオオオウアアアアアア!!!!!!!! 好き!!!!!くっそすき!!!!!
やばいめっちゃ長くなったわ()
『盤上への支度』
屋敷に一通の招待状が届いた。
「夜会への招待状のようです」
「まぁ…」受け取った招待状を眺めながら石榴が呟きながら
近くにあったナイフで封蝋を切り、手紙を開く
拝啓
近頃、街においてひときわ名高い
人形屋兼宝石商のご活躍、
我々一同、誠に興味深く拝見しております。
是非一度、その後活躍の中心に居られる貴殿を
我々の夜会に紹介させて頂きたく存じます。
失礼ながら
この招待は誰にでも差し上げているものではありません。
是非その価値に応える形でご出席ください。
どうぞ分不相応だと思わずに、
賢明な判断をお待ちしております
敬具
「愚弄しているのか…?」
クオーツが地に這うような低い声で呟くと同時に手紙の端がくしゃりと潰れる。
一見丁寧に見える文の中にある明らかな軽蔑と挑発の籠った皮肉
『その価値に応える形』→明らかな上から目線
『どうぞ分不相応だと思わずに』→お前は私よりも格下だ
『賢明な判断をお待ちしております』→答えは一つだけ
そんな高貴な血統らしい”知性と品のある文学的な煽り”
しかし、石榴の反応は彼らの予想外だろう
「まぁ、なんと丁寧な文なのでしょう…それに加えて、随分と回りくどい」
その声に苛立ちなどない。
夜会の日程は今晩
「衣装を用意しないといけないわね」
石榴の声と共にクオーツが即座に準備に取り掛かる。
石榴の衣装棚を開けると、硝子のケースが整然と並び
質の良いドレスが丁寧に保管され眠っている。
「本日はあちら側に華を持たせるのですか?」
「ええ。だからこそ…繊細で、控えめで…隙のないものを選ばないとね」
石榴は鏡の前に腰掛け、脚を組み替える。
その動作すら計算されたように滑らかで、無駄がない。
「石榴様、本日はこちらでよろしいでし ょうか?」
深い紅色を宿したドレス。
一見すると暗うが光が当たった瞬間だけ 血のように澄んだ赤が内側から滲む。
派手な装飾もなく、露出も少なく縦のラインを意識したシルエット。
そんなドレスを確認した石榴は微笑み、 クオーツの頬を優しく撫でる。
夕刻時、着付けが始まる。
ドレスが肩にかけられ、背で静かにコルセットの紐が締められるていく
クオーツの手つきは無駄がなく、乱暴さは一切ない。
布を引き、整え、撫でるたびに、石榴の輪郭が完成していく。
「…内臓が圧迫されるわねぇ…」
「失礼致しました、緩めましょうか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「これくらいが一番美しいの」と、姿見を見ながら石榴は呟く。
そこへ、フィオリナが「パンパカパーンッ、飾りのお届けもので〜すっ!」と言いながら宝石箱をもってくる。
留め金を外すと、中で眠っていた眩い石たちが、蝋燭の光を受けて一斉に目を覚ます。
「耳元は控えめに致しますか?ドレスとは違い多少絢爛にいたしても良いかと」
「例えばこういうのとか!」
「それは派手すぎます。そういったものはオークションの際に着けるべきです」
「えー!?でも石榴様の魅力を最大限だすためには〜!」
「顔と、沈黙ね。それで十分」
石榴が口を開くと、クオーツとフィオリナも瞬時に言葉を紡ぐのをやめた。
石榴が選んだのは小さなブラックオパールが揺れるピアス。
一見控えめだが、石榴の光を拒むほどの黒髪が風に揺れた時
微かに覗くその様は、静かな権威を示すには十分すぎるくらいだ。
次に石榴は鏡台の前に腰掛ける。
窓からは差し込む夕陽が部屋に差し込み
瓶に反射してその色が部屋の中に広がっている。
クオーツが石榴の黒髪を一房、耳にかけると
普段前髪で隠れている白磁のような額が露わになり、柔らかな布で肌を拭う。
「失礼します」クオーツが石榴の肌に化粧水をつけ
クリームを薄く塗りベースを整える。
それが終わるとフィオリナが透明の下地を指で 塗り
ほんの少しだけある隈を消すように薄くファンデーションを塗りパウダーを優しく叩く。
「アレキさん、いいですか?コテは熱いので何があっても失敗してはいけませんよ?いいですか?」
「はーい!わかってまーす!」
不安そうに見守るクオーツとフィオリナ、ペリドットとは対称的に
石榴は「手元にはお気をつけてくださいね」と言うだけで心配はまるでしていないようだ。
アレキが石榴の前髪を無事巻くと、見守っていた三人はほっと胸を撫で下ろし
石榴はアレキの頭を撫でる。
最後にペリドットが石榴の細かな美を整える。
眉を少しペンシルで描き
ほぼ色と言えないほど淡いアイシャドウを指で広げ
アイラインでほんの少しだけ睫毛の間を埋め、マスカラで少し影を落とす。
「これで…良い?」ペリドットが少し不安そうに問う。
鏡に映る石榴の目は、何も変わっていないように見える。
大きくも、派手にもなっていない。
それでも視線を合わせた者は、理由もなく目を逸らせなくなる。
石榴はペリドットを軽く見て微笑む。
「完璧よ、ペリドット。とても…美しい。
でもね、今晩にこの美はほんの少しだけ合わないわ」
そう言って石榴は指先で一度だけ影を撫で、わずかに崩す 。
「この世はね、不思議なものや少しだけ不完全なものに惹かれるの」
そう言って、石榴は自分の頬に普段どうりの鱗のようなメイクを描き込み、
指先で紅をすくい、唇を撫でるように着けていく。
石榴はその艶を確認し、鏡の中の自分を見つめ
紅の入った硝子の容器をしまう。
外套を羽織り終え、手袋を整えたところで
石榴は足を止めてクオーツを見る。
いつも通りの、静かで隙のない佇まいの
石榴の自慢の可愛い真っ白な小鳥。
でも、その姿は今宵の場には少しだけ惜しい。
石榴は一歩距離を詰めてクオーツの瞳を覗き込む。
「クオーツ、 こちらへ来て」
石榴は彼女を鏡の前に座らせ、自分はその背後に立つ
「石榴様、私の身支度は…」
「いいから」
石榴は、卓上に並んだ化粧道具の中から、 ごく限られたものだけを選ぶ。
色の強いものは取らない。
華美なものは彼女彼女の美しさを損なうだけ。
必要なのは、繊細な光と、整えられた輪郭線
元々整っている顔立ちだから変える必要はない。
仕上げの唇にも色を使わない。代わりに、艶をほんの一滴。
石榴が一歩引いて確認する。
お気に入りの人形を外へ連れ出す前に埃を払って、光に当ててやる子供のように。
「…うん」
満足そうに、短く。
クオーツは鏡を見て そこに映る姿が普段とほとんど変わらないことに少し驚く。
「…あまり、変わっていないように見えるのですが」
「それでいいの」と石榴が即答する。
「主役じゃないから。私の隣に立つには、これで十分」
その言葉に、クオーツの背筋がわずかに正される。
石榴は道具を元に戻し、何事もなかったかのように踵を返す。
「さあ。行きましょう」
「かしこまりました」
出発直接、石榴は振り返り玄関近くに集まっている留守番組を見る。
「フィオリナ」
名前を呼ばれただけで、ぱっと表情が明るくなるように花弁がひらく。
「はいっ♡本当は私がついて行きたいのにっ♡でも、いってらっしゃ――」
「火は?」
言葉を遮るような、優しく穏やかな一言。
フィオリナは一瞬きょとんとしてから慌てて胸を張る。
「全部確認しました! 今日はお湯も早めに止めてあります!」
「よろしいわ、戸締りと警備の確認はお願いね」
「はいっ!5回確認します!」
「1度で充分よ」
石榴はペリドットに視線を移す。
「ペリドット」
「はいっ」
「夜更かしはしないように、ちゃんと暖かい格好で寝るのよ?」
「言われなくてもわかってるよ、…お母さんも会場の外では暖かい格好でいてね」
「ええ、ありがとう」
最後に、視線がアレキへ向く。
「アレキサンドライトさん」
「はーい!」
「走らないこと。棚を倒さないこと。人が来ても扉を開けないこと。
何かあったら他二人に確認を取ること。あと…」
一拍、間があく
「明日の朝、お土産を持って帰って来ますのでね」
アレキは一瞬だけ目を丸くしてから、大きく笑う。
「わっかりましたー!」
石榴は三人の頭数をもう一度確認する。
「明日に朝には帰るから。
たとえ喧嘩をしても……明日に持ち越さないようにね」
少し間を置いて、付け足すように石榴は口を開き「私は、ちゃんと戻るから」と告げる
「じゃあ……行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ!」
「気をつけてね」
「おみやげー!」
扉に手をかける直前、石榴は小さく笑う。
すると何かを石榴はふと思い出したように、動きを止めた。
「……ねえ」
低く、柔らかな優しい声色。
呼ばれた四人同時に顔を上げる。
石榴は振り返らない。
鏡を見るでもなく、身なりを確かめるでもなく、ただ、そこに立ったまま言う。
「私は美しい?」
一瞬の沈黙が起きて 最初に反応したのは、フィオリナだった。
「当たり前です!!! 世界一です!比べるものなんてありません!!」
「声が大きいわ」
そう言いながらも、石榴はどこか満足そうで止めはしない。
ペリドットは一拍置いてから、きちんと答える。
「うん、とっても綺麗」
少し考えてから、続ける。
「お母さんはいつも、いつまでも綺麗だよ」
アレキもそれに続くように「うん!きれい!キラキラしてる!」と言う
最後に口を開いたのは付き添いで共に行くクオーツ。
彼女は一度だけ、石榴を頭から足先まで見て、それから静かに頷く。
「はい。今夜、誰がどう振る舞おうと石榴様より美しく在る者はいません」
その言葉は、誇張でも追従でもない。ただ、事実を述べている。
石榴はようやく、ほんの少しだけ口元を緩める。
「ありがとう」
それだけで十分だった。
疑いを消すためでも承認欲求でもない、ただの確認だ。
石榴は扉を開ける。
「改めて留守、お願いね」
「「「いってらっしゃい/ませ!」」」
夜の冷気が、足元から忍び込む。
だが、背中は温かいまま。
「石榴様、御手を」
「ええ、ありがとう」
クオーツにエスコートされる形で石榴は馬車まで歩く。
馬車が止まり、足音とざわめきが一段遠のく。
石榴は歩みを止め、目の前の建物を見上げた。
無数の灯りと 磨かれた石材。
誇示するような装飾と、富と血統を並べ立てた煌びやかさ。
確かに、見事ではある。
だが、石榴の表情は変わらない。
石榴は自身の店を思い浮かべる。
静かな森の奥、人形と宝石が息を潜めるあの空間。
そんな石榴にとって最も理想的な場所。
誰にも聞こえないような独り言のように石榴は呟く
「……やはり」
比べるまでもない。美しさの質が違う。
石榴はおもむろに首のチョーカーの青い宝石に触れる。
「…行きましょう」
差し出されたクオーツの手を取り、 石榴は灯りの中へと足を踏み出す。
盤上は整った。
あとは、駒を動かすだけだ。