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※ロードオブザリング 旅の仲間 でオークの奇襲に遭いホビット達を助けて弓に射られたボロミアが、アラゴルン達に船に乗せられて水葬された後の話。

ーーある川で船に葬られた若者が揺られていました。滝を落ち軽く水に浸かった船は、そのうち美しきラクロスの大河の内に抱かれました。

大河には古き精霊が住まっていまして、その名は在らずとも彼らの影響は偉大でありました。

古き精霊はそっと若者の額に口付けし、若者の内に命の灯った炎をそっと吹き込み、若者はその力によって速やかに現世に呼び戻され、そしてまた船に揺られて送り出されました──

さてその頃、ドレン・グラドと呼ばれる場所があり、人の言葉で秘めたる森と言いまして、そこには昔、エルフ達が住まっていたのですが、彼らが去った後も数々の館が残されていたのでした。

そして今はシリウルという名の、未だ微かにエルフの血が流れる娘が所有しそこを居としていました。

シリウルは何かが彼女の領域に入ったのに気がつくと、岩にかかった船を見て不思議に思い、それを取り除きました。すると立派な体格の若者が丁重に葬られていたのを見ました。

シリウルは乗せられた船がロスロリアンから来た物であると気づくと、この若者がかのエルフ達と親交を持っていた事を察し、若者に敬意を持って追悼の祈りを告げようとしました。

するとその若者の胸がとても微細に上下し、まだ微かに息がある事に気づいたのです。

これは由々しき事態だと、彼女は直ちに若者を陸に引きずり上げました。

彼はまさに風前の灯、今にもその命は尽きかけていました。

シリウルは近くに植えられた王の葉、アセラスを手に取り揉み潰すと、まじないを唱えながら彼の矢傷と思われる場所に少しずつ塗っていきました。

彼女はこう唱えました

ᚨᛋᛖᚱᚨᛋ'ᛋ ᛈᚩᛖᚱ ᚻᛖᛖᛚᛞ ᚥᚩᚢ. ᛅᚩᚹ ᚥᚩᚢ ᚻᚨᚣᛖ ᛏᚩ ᚳᚩᛗᛖ ᛒᚨᚳᚲ ᛏᚩ ᚥᚩᚢᚱ ᚹᚩᚱᛚᛞ. 

ᚥᚩᚢᚱ ᛚᛁᚠᛖ ᚻᚨᛋ ᚠᚩᚱᚷᛁᚣᛖᛅ ᚨᛅᛞ ᚥᚩᚢᚱ ᛒᚩᛞᚥ

ᚻᚩᛈᛁᛝ ᚥᚩᚢᚱ ᛚᛁᚣᛖ ᛏᚩᚩ. ᚳᚩᛗᛖ ᛒᚨᚳᚲ, ᚥᚩᚢ ᛋᛏᚱᚩᛝ ᚹᚨᚱᚱᛁᚩᚱ.

王の葉の癒しがそなたに与えられた

これよりそなたは現に戻るがよい   

そなたの命は生きることを許されその身体もまた望んでいる

戻られよ 強き戦士たる者よ

彼女ではアセラスの力を十分に引き出せないのですが、それでも普通の薬草よりずっと、闇に与えられた傷に効果がありました。

そうして彼女は自分が出来る最大限の処置を彼に施し、彼を治癒の野と呼ばれる月と、太陽どちらの光も一番注がれる場所に安置させました。

熱い額を水の恵に濡れたタオルで冷めさせると、小さく微かな息は徐々に強まるように思えましたが、それにしても未だ彼は死に瀕しています。

問題は彼の傷ではなく、傷に深く入った闇 の息吹でした。

シリウルはこの闇を退ける程の力は持っていませんでした。

かの若者は闇に深く蝕まれていましたし、もはや闇を退ける御業は上のエルフ達にもなかった程なのです。

それでもシリウルはこの若者を強く救いたいと思い、それを成すためにはどんな手段も厭わない程、想いが膨らみました。

その為彼女は決心し、館に残っていた癒しの穂を取りに秘めたる森の最奥に向かい、彼の面前に持ってきました。

その穂は何十年かを周期に月が一番大きくなった時にその光を唯一存分に受けて収穫された物なのです。この原料はレンバスにも使われていまして、彼女の先祖のエルフが熱傷でやつれていくのを見て哀れんだ地位高き何方かが、授けたものでした。

そのエルフはついぞ使う事はなく、そのまま館に残されていた物でした。

彼女は穂をすり鉢で潰し、粉状にして薬のようにし、水に溶かして若者の口にゆっくり注ぎ込みました。

少し零しながらも十分な量を飲んだ所で丁度月が出てきました。その日はちょうど満月の日でシリウルは運命的なものを感じながらも彼の様子を見ていました。

すると彼は瞬く間に回復し、漸く彼の闇を遠ざけました。それからもシリウルはずっと彼に付き添っていました。

熱に魘される彼の身体を拭い、痛み膿んだ場所あれば膿を取り、また毒を浄化しました。

こうして長い時彼を看病していてやっと、その若者は回復の兆しを見せたのでした。

度々若者は瞼を動かしたり、さも意識がある様な動きを見せたのですが、目覚めることはありませんでした 。

月の光の恵そのものが注がれた今もまだ、闇が彼を離さぬのでしょう。

彼の熱が上がり魘される度にまたシリウルは癒しのまじないを作り、それをまたこの様に唱えました。

ᚻᛖᛖᛚ ᚻᛁᛗ ᚹᛁᛏᚻ ᛏᚻᛁᛋ ᛒᚱᛁᚷᚻᛏ ᛋᚢᛅ ᚱᛁᚷᚻᛏᛋ

ᛗᚨᛚᚨᛞᚨᛅ‘ᛋ ᚳᚻᛚᛞ ᛏᚻᛁᛅᚨᛞᚨᛅ ᚹᛁᛚᛚ ᛒᛚᛖᛋᛋ ᚻᛁᛗ ᚢ ᛅᛏᛁᛚ ᚻᛖ ᚻᛖᛖᛚᛖᛞ ᚨᛅᛞ ᚻᛖ

ᚷᛖᛏᛋ ᚻᛖᚨᛚᛏᚻᚥ ᛖᛅᚩᚢᚷᚻ

我が頼みによって そなたに眩いばかりの月の恵みが注がれた

これによりそなたの傷は癒されん

マルアダンの子シンアダンは彼の者を祝福せん

その者十分に癒されるまでは祈り続けよう

シンアダンとは彼女のエルフ名で、シリウルがこれをまじないとして唱えるということは、宣言と同じ意味を持ちます。

なのでこの言葉は彼女の決心を裏付けるものでした。シリウルの気持ちが伝わったかのように、若者の吐息は安らかになり発汗量も減りました。ここで初めて、シリウルは安心したように顔を綻ばせたのでした。

ロードオブザリング/ボロミア生存if

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