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翔太side
涼太の家のリビングは、俺にとって都合がいい。
静かだし、文句も言われねえし、何より居心地がいい。
俺はソファに寝っ転がって、今日買ってきたばかりの新作ゲームに没頭していた。
💙あー、くそ! なんでだよ!
もう二時間。あと一歩のところで、このクソみてえに強いボスにやられ続けている。
コントローラーを握る手に、じっとりと汗が滲んだ。
視界の端っこで、涼太が優雅にアイロンをかけているのが映る。
俺がこんなに騒いでんのに、あいつは気にする素振りも見せねえ。 昔からずっとそうだ。
俺が何してようが、こいつはいつも自分のペースを崩さねえ。
それが腹立つ時もあるけど、今はその無関心がありがたかった。
💙あと一発なのに! いっつもあのパターンでやられる!
思わず声がデカくなる。
三回目の薙ぎ払い。
わかってんのに、避けられねえ。
その時、アイロンを滑らせる音だけを立てていた涼太が、顔も上げずに静かに言った。
❤️翔太。そこは攻撃じゃない。一度引いて、相手のパターンを読め。三回目の薙ぎ払いの後に、隙ができる
…は?
俺は、コントローラーを握ったまま、ぴた、と動きを止めた。
そして、アイロン台の向こうにいる涼太を、睨みつけた。
💙…見てたのかよ!
だって、ありえねえだろ。
こいつ、一回もこっち、見てなかったくせに。
❤️別に見てない。音でわかる
涼太は、涼しい顔で、シャツの襟を完璧な角度に仕上げている。
その自信満々な横顔が、妙にムカつく。
💙…うそだろ
音でわかる?エスパーかよ。
半信半疑。いや、九割九分、疑ってる。
でも、こいつの言うことは、昔から、なぜか、当たるんだ。
…しゃーねえ。一回だけ、試してやるか。
俺は、言われた通り、一度距離をとって、敵の動きをじっと見た。
一回、二回…そして、三回目の薙ぎ払い。
その、直後。
ほんの一瞬、確かに敵の動きが止まった。
そこだ!
俺は、残っていたスキルを、全部叩き込んだ。
画面の中で、巨大なボスが、断末魔を上げて、光の粒子になって消えていく。
そして、軽快なファンファーレの音が、リビングに鳴り響いた。
💙………倒せた…
呆然と、呟く。
二時間、俺が苦戦してたのが、嘘みたいに。
するとアイロンを置き終えた涼太が、こっちを向いて、満足そうに小さく笑った。
❤️言っただろ?
そのしたり顔。
くっそ!めちゃくちゃ腹立つ!
でも倒せたのは事実で。
💙……別に、お前のおかげじゃねえし。俺がうまかっただけだし
精一杯の強がりを口にした。
でも口元が緩んじまうのは、止められなかった。
多分こいつには、バレバレなんだろう。
涼太は何も言わずに、またアイロン作業に戻った。
その背中が、なんだか、やけにデカく見えた。
💙…なんか…飲むもん頂戴
❤️冷蔵庫にサイダーが入ってる
💙取ってきて
❤️わかった。ちょっと待ってて
…ああ、そうだ。
俺がこの前、ここに置いてったやつだ。
なんでこいつは俺のこと全部お見通しなんだよ。
…いや…別に…嫌いってわけじゃないけど…?