テラーノベル
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高等部6年生の涼架にとって進路を決定する運命の季節がやってきました。
しかし、本人は深刻な顔をしているわりには、なぜか中等部棟の204号室に居座り、3つ年下の後輩二人に泣きついていました。
「ねぇ、二人とも……。僕、どうしたらいいと思う? 文系? 理系? それとも、いっそ海外の音楽学校とか行っちゃう……?」
机に突っ伏してジタバタする涼架を、元貴と滉斗は呆れ顔で見守っていました。
「涼架さん、なんで中3の俺らに聞くんですか。担任の先生とか、親御さんに相談してくださいよ」
「だってぇ、滉斗は冷静だし、元貴は僕のこと一番分かってくれてるでしょ!?」
「……うーん、りょうちゃん。どの大学に行くかより、『何をしてる時が一番楽しいか』で考えたら?」
元貴が優しくお茶を差し出すと、涼架は「一番楽しいとき……」と呟いて、これまでの学園生活を振り返り始めました。
「僕が一番楽しいとき……。あ、文化祭で元貴と滉斗の衣装を考えてるとき! あとは、一人の時より、誰かが喜んでくれたり、笑ってくれたりするのを見てる時かなぁ……」
涼架は、元貴の聴覚過敏を和らげる方法を必死で探したり、滉斗のぶっきらぼうな優しさを誰よりも早く見つけて褒めたり、ずっと二人の(そして学園中の後輩たちの)「お世話」を焼いてきました。
「涼架さん、ずっと俺らの面倒見てましたもんね」
滉斗がボソッと呟きます。
「……あ。そういえば僕、小さい子が困ってると放っておけないし、みんなに『お兄ちゃん』って呼ばれるの、実は結構気に入ってるかも……」
数日後。進路指導室から出てきた涼架は、晴れやかな顔で中庭にいる二人のもとへ駆け寄ってきました。
「決めたよ! 担任の先生に、この紙出してきた!」
涼架が誇らしげに見せてくれた控えの用紙。そこには、第一志望として、『藍林檎大学 教育学部 保育士養成学科』の文字が力強く書かれていました。
「保育士さん……! りょうちゃんにぴったりだよ! すごく素敵な仕事だと思う」
元貴がパッと顔を輝かせます。
「……まあ、妥当ですね。涼架さん、うるさい子供の扱いとか、俺で慣れてるでしょ」
「ちょっと滉斗! 君は『手のかかる可愛い弟』だっただけでしょ!」
涼架は笑いながら、でもどこか決意を秘めた目で言いました。
「僕ね、元貴みたいに、ちょっと繊細だったり、滉斗みたいに、一生懸命生きてる子たちの味方になりたいんだ。学園で二人に鍛えてもらった経験、大学で活かしてくるよ!」
「じゃあ、来年からは『涼架先生』の修行が始まるんだね」
「あはは、まだ早いよ! でも、大学に行っても二人のことはずっと見守ってるからね。寮に遊びに来るし、お菓子も持ってくるから!」
最高学年の背中は、いつの間にか少しだけ頼もしく見えました。
涼架が去った後の静かな中庭で、元貴は滉斗の肩に頭を預けます。
「……僕たちも、あと1年で高等部だね、ひろと」
「ああ。涼架さんがいなくなると少し静かになるけど……。俺たちが高等部に行く頃には、あの人はもっと凄いやつになってるかもな」
二人は、少し寂しく、でも誇らしい気持ちで、春の空を見上げるのでした。
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コメント
4件
りょうちゃんらしい仕事! 今回も良すぎてます🫶🏻🫶🏻