テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
その視線には、温度がなかったのだが、恍惚とランディリックの美貌に見惚れている二人は恐らく感知していない。冷ややかというよりも、むしろ切り裂くように鋭い視線を二人に向けたまま、ランディリックが続けた。
「では、あなた方がこの屋敷にいる理由はありませんね」
静かなその一言に、場の空気が凍りつく。
「な、何をおっしゃっているのですか!? ウールウォード家の管理は公的にうちの夫が任されておりますのに……!」
「リリアンナ嬢が亡くなっているというのであれば、彼女の後見人も不要です。領地は国に戻り、正式な手続きの後、王命でしかるべき人間が新たに配置されるのが筋というものでしょう! このままここへあなた方が居座ることは、亡き伯爵家の名を騙って屋敷を私物化しているという罪に問われるかもしれないと、お気付きになられないのか?」
エダのヒステリックな反論を遮ったのは、ランディリックの、酷く冷たく低い声音だった。
その威圧感にエダが怯んだ刹那――。
「……っは、はあっ、はあっ……!」
裏庭からこちらへ向けて駆けてくるバタバタという足音とともに、息も絶え絶えに瘦せこけた一人の少女が泣きながら玄関先へ姿を現した。
そんな彼女を追い掛けるように、大分遅れて太った中年男が慌てた様子でボタボタと走ってきた。だが、ランディリック達一行と目が合うなり怯んだように立ち止まる。
少女が着た、色褪せたボロ布のような衣服はブラウスの前ボタン数個が不自然に着乱されており、まるで誰かから良からぬことをされそうになった気配を漂わせている。そんな彼女の姿を見るなり、ランディリックは瞬時に表情を変えてその身を翻した。
「リリアンナ!」
その名を呼んで駆け寄ったランディリックの前で、少女――リリアンナ・オブ・ウールウォードは、全身の力が抜けたように膝から崩れ落ちそうになる。
咄嗟にランディリックが支えなかったらきっと、地べたへペタンと這いつくばってしまっていただろう。
「助けて……。お願い……。助けて……!」
ランディリックの腕の中、か細い声でそう呟いたリリアンナが、堪え切れないみたいにポロポロと涙をこぼす。
ランディリックは無言でその小さな身体を抱きとめ、震える肩を優しく支えた。
その瞳には、燃えるような怒りが宿っていた。
「よく、耐えてくれたな、リリアンナ。もう、誰にもお前を侮辱させない」
その言葉の端々に、ひた隠しにしていた情が滲む。
視線の先には今にも逃げようとしているダーレンの姿があった。
コメント
1件