テラーノベル
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夜の保健室は、消毒液の匂いと、遠くから聞こえる部員たちの話し声に包まれていた。
先生の指示で、私は遥の足首に新しい湿布を貼り、包帯を巻き直すことになった。
「……痛かったら言ってね」
「……ああ。……っ、いて」
「あ、ごめん! 力入れすぎた?」
「いや、大丈夫だ。紗南、お前意外と手が冷たいな……気持ちいいわ」
遥がベッドの縁に座り、私の頭上からぼそっと呟いた。昼間の険しい表情は消えて、少しだけ素直な顔を見せている。
「小谷先生、怖かったけど……処置、早かったね」
私がそう言うと、遥は窓の外を見ながら小さく頷いた。
「……ああ。怒鳴られるかと思ったけどあの人、俺の足に触れただけでどこが痛いか正確に当てやがった。……結構、部員のこと見てんだな」
先生の不器用な優しさが、遥にも少しだけ伝わったみたいだ。
私が包帯の端を留めて顔を上げると、至近距離で遥と目が合った。
「……紗南。さっき、かっこよかったって言ったの、本気か?」
「え……?」
「試合中。俺のこと、見ててくれたんだろ」
遥のまっすぐな視線に、ドクン、と鼓動が速くなる。
返事に困って視線を泳がせると、開けっ放しだった保健室のドアの隙間に、人影が立っているのが見えた。
「……なんだ。まだ先生の『特別居残り指導』が続いてるのかと思ったよ」
凌先輩だった。
手には、昨夜と同じココアの缶ではなく、スポーツドリンクのボトルを二つ持っている。
「兄貴……」
「遥、足の具合はどう? 明日の試合は流石に欠場だよ。……紗南ちゃんも、ずっと付き添ってくれてありがとう。後は僕がやるから、もう休んでいいよ」
凌先輩はいつものように穏やかに微笑みながら、私たちの間に割って入るようにして部屋に入ってきた。
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