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宿に戻るとスキュラだけが起きていた。スキュラなら理解してくれる――そう思い、剣闘場で稼ぐことや転送士のことを彼女に相談してみた。
「そういうことでしたら、まずは手持ちの稼ぎを得るためにあたしをお使いくださいませ」
「え、でもスキュラのその姿では……」
彼女の見た目は人間に似せてはいるがそれはあくまで仮の姿。さすがに間近に来られれば、すぐに魔物と気付かれてしまうに違いない。
「それでしたらご心配には及びません。アックさまから頂いた宝珠には、わずかながら魔力を込められます。貴族程度でしたら宝珠の魔力に惑わされ、宝石を持つあたしを貴婦人として見るに違いありませんわ!」
貴婦人とはまた大きく出たな。
「貴族の酒場に潜入を? いくらキミでも危険なんじゃないかな……」
「――ですから、エスコートをお願いしますわ。あなたさまがお傍にいて頂けたら、後で好きなだけ触角に触れて頂いても……」
何とも艶めかしい動きを見せているが、油断したら危険だ。
「――いや、それは」
「フフフ……」
「と、とにかく、護衛役として同行するってことでいいんだよね?」
一瞬迷いそうになった。一見すると獣耳のように見える触角に手を伸ばしかけた。しかし、それは直接スキュラの体に触れるようなもの。何だか非常によろしくない行為のような気がして手を引っ込めた。
「あたしは一足先に人間の姿になりますわね。フフ、今ここでご覧になりますか?」
「先に部屋を出ているから! おれは外で待っているよ」
スキュラには色々興味はあるが、知らないでおく方が良さそう。
それにしてもルティからしょっちゅう回復ドリンクを貰っているような気がする。おかげで基礎体力も上がっているし、拳の力もルティに迫っている気さえ。
ルティは何でも拳で解決したそうにしているが本来は支援系だ。ルティじゃなくおれの方が拳闘の力で解決すべきだろうな。
「お待たせしましたわ、ダンナ様」
「ダ、ダン――!?」
スキュラの姿格好はいかにもそれっぽい。
「そう深い意味でもありませんわ。アックさまのお立場は宝石をいつでもどこでもお出しになる商人。そういう意味でのダンナ様ですわよ? お得意様のあたしと貴族酒場に……何もおかしくなんてありませんわね」
この意味でいうと、おれの方が立場は下ということになる。
「そ、そうか」
あまりに自然で慣れた感じだが、あからさまに宝珠をちりばめて夜でも光で目立ちそうなので怖くて聞けそうにない。
「そんなに見つめて、どうされました?」
「スキュラって、人間でいうと何歳くらいなのかなと」
「……くだらないことですわね。数字よりもどれだけの人間が魅了されるか、それに尽きるはずですわ」
「ご、ごめん」
「アックさまにはお教えしても構いませんけれど、あたしの触手に触れられます?」
スキュラの下半身はタコとイカといった足になっていて触手がある。今は人間の足に変わっているが、やはりどこか危険な感じがあるしやめておくのが無難だ。
「そのうちね」
「いいですわ。それでは、人間ごときが富でわめく酒場に向かいますわね。護衛役をお願いしますわ、ダンナ様」
「ああ、分かった」
今気付いたが宝珠で散りばめられた彼女に対し、おれだけがみすぼらしい格好のままだ。そうなるとガチャを使って、ダンナ様装備を出すことも考えねばならない。
だとしても、レア確定ガチャで出る高価な服を着るにはやはり相応のレベルが必要な気がする。強さというより人間性の問題のような。
とにかく今は、貴婦人スキュラの護衛としてついて行くしかない。