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11. ◇トロイの木馬
お腹が膨らんで疲れが少し取れてほっと一息ついた頃、インターホンが鳴った。
もうすでに夜の帳も降りていた。
こんな時間に訪ねてくるっていうのは、小さな頃からの幼友達である
紀子くらいなものだ。
だから『あれっ、紀ちゃん今頃何だろう?』くらいの気持ちで、
テレビドアホンを覗いてみた。
『啓吾……』
夫の姿を目にした途端、私の心臓は瞬く間に早鐘のように
ドクドク鳴り始めた。
正気ではいられない。
落ち着いて香織……。
『落ち着くのよ、本心はどうであれ取り乱すのだけは止めようね』
と自分に言い聞かせた。
そうは言うもののすでに私は涙目になっていた。
だから何?
こんな状況で涙目になるぐらい誰からも非難される謂れはないはず、
などと、どこにも存在しない非難者に攻撃的な感情を向けていた。
分かっていた。
本当に私が攻撃したい相手は、啓吾という私の夫だっていうことは。
-
今、例え居留守を使っても、いずれは向き合わなければならないのだ。
それなら早いほうがいい。
私はインターホンに出た。
「はい……」
「いいかな? 」
私は啓吾を招きいれた。
「今日は折角来てくれたのにすまなかった」
「突然訪ねて行った私が悪かったのかなぁ? 」
思ってもないことを、勝手に私の口が言い出した。
「今日彼女とふたりでいるところを見られてしまってるから、
香織は大体のところは察してると思うけど、いつかこうやって彼女のことで
話し合いしないといけないってずっと思ってた。
だけど君にどう話していいのか、ヘタレだからさ、なかなか
言い出せなかったんだ」
「言い出すキッカケ、私が作っちゃったんだね。
大人しくここで待ってればよかった」
またまた私は心にもないことを言い放っていた。
そんな事関係ないことくらい、とうに理解してるっていうのに。