コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私、何を考えてるの?
ほんの一部しか隠れていない国宝級の裸体。生まれて初めて見る美し過ぎる体に、嫌でも顔が赤面する。
山根さんの体は全然平気なのに。
私は、慌てて、「見ていません。全然興味ないです」の顔を必死で作り、冷静なフリをした。
「来てくれるの、待ってた」
山根さんと交替した常磐さんは、プールサイドに跪いて私を見下ろしながら言った。
「あの、すみません。厚かましく来てしまいました」
「厚かましいなんて思わなくていい。たまたま今から勤務だった。このタイミングは奇跡だな」
「き、奇跡?」
「ああ、この前、店で会ったのも奇跡だった」
「か、からかわないで下さい。簡単に『奇跡』なんて言葉は使わない方がいいですよ」
「なぜ?」
「なぜって……その、女性ならみんな勘違いするというか……何というか」
慣れていないやり取りに、上手く言葉が出てこない。
「俺は、ただ素直な気持ちを言ってるだけだ」
「素直って……き、奇跡なんかじゃないですよ、別に」
そう言いながらも、斜め上にある顔が美麗過ぎて、さっきから動揺が加速したまま止まらない。
水泳帽のおかげで、眉も目もハッキリ見えて、まつ毛の長さにも驚く。肌にもキメがあり、ツヤツヤしてて、女性の自分が勝てるところなんて1つも見当たらなかった。
ふと周りを見ると、明らかに女性の会員さん達がみんなこちらを見ていた。常磐さんを意識してる女性が多いことが、瞬時にわかった。確かに、その気持ちはわかる。こんなイケメンのセクシーな肉体をすぐ近くで見れるチャンスなんて、絶対に他にはないから。
当の本人は、そんなことには全く関心がないのか、サッとプールに入り、私のすぐ横に立った。背の高い常磐さんにドキッとする。
「アクアビクスは音楽に合わせて体を動かしていく。軽快なリズムに乗って」
「は、はい」
いきなり、その言葉で先生と生徒の関係になった気がした。
隣で常磐さんが動くのを真似て、私もやってみる。腕や足を使って様々な動きをつけると、さっきよりもさらに水の抵抗を感じた。体力の衰えが露呈し、情けなくなる。
「もっとリズムに乗って。顔は笑顔で」
「あっ、はい。あの……でも、常磐さんみたいには出来ません」
笑顔なんて恥ずかしい。
「じゃあ一緒に。真っ直ぐ立ったまま腕をしっかり上げて」
えっ……
その瞬間、常磐さんは私の背中側に動いて、後ろから私の両腕を掴んでゆっくりと上に伸ばした。
嘘、私、腕を触られてる?
あまりにも突然過ぎる接近。
体同士がくっついてるわけじゃないのに、背中から伝わってくるオーラがすごくて、急激に脈が早くなる。
その様子をプールサイドから見ていた女性達がコソコソ何かを言ってるのがわかる。きっと、私みたいな女が常磐さんに触れられてることが気に入らないんだろう。視線があちこちからいくつも突き刺さって、痛いやら恥ずかしいやら、自分の感情の変化についていけなかった。