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修学旅行の夜。
旅館の大部屋では恋バナ大会が始まっていた。
実瑠は布団に座りながら本を読んでいたが、周囲の盛り上がりは無視できない。
「好きな人いる?」
「いるー!」
「告白されたことある?」
「ある!」
楽しそうな声が飛び交う。
すると一人の女子が実瑠を指さした。
「会長は?」
実瑠は顔を上げる。
「いない。」
即答だった。
しかし周囲は納得しない。
「絶対嘘。」
「会長わかりやすいもん。」
「何が。」
「浜瀬先輩。」
その名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
「違う。」
「じゃあ玲奈ちゃんと付き合っても平気?」
言われた瞬間だった。
平気。
そう言えば終わる話だった。
なのに。
言葉が出てこない。
玲奈と一斗が並ぶ姿を想像する。
胸が苦しい。
嫌だ。
そう思ってしまった。
「……。」
部屋が静かになる。
女子たちが顔を見合わせた。
そして。
「会長。」
「なに。」
「それ好きじゃん。」
実瑠は否定できなかった。
⸻
修学旅行から帰ってきてからも、その言葉は頭から離れなかった。
好き。
自分が。
一斗を。
そんなこと考えたこともなかった。
しかし思い返してみれば、一斗のことばかり考えている。
困った時に最初に頼るのも一斗。
嬉しいことがあると最初に報告したくなるのも一斗。
玲奈と話しているとモヤモヤする。
その答えは一つしかなかった。
⸻
数日後。
放課後の図書室。
文化祭関係の資料を探していた実瑠は、本棚の前で足を止めた。
目に入ったのは雑学本だった。
暇つぶしにページをめくる。
すると。
『お菓子に込められた意味』
というページが目に入った。
クッキー。
チョコレート。
マシュマロ。
そして。
キャンディ。
何気なく読んでいた実瑠の視線が止まる。
『ミルクキャンディ
意味:あなたが好きです』
「……え?」
思わず声が漏れた。
脳裏に浮かぶ。
去年の夏。
生徒会室。
一斗が渡してきたミルクキャンディ。
『疲れてるでしょ。』
そう言って笑っていた顔。
「まさか。」
しかしすぐ首を振る。
そんなわけない。
ただの差し入れだ。
そう思う。
思うのに。
それ以来、そのキャンディのことが頭から離れなくなった。
⸻
文化祭準備が始まった。
玲奈は相変わらず元気だった。
「会長!」
「なに。」
「この飾りどうですか?」
「いいと思う。」
「やった!」
玲奈は嬉しそうに笑う。
そんな玲奈を見ながら実瑠は思う。
本当に可愛い。
明るい。
優しい。
一斗と並んでいても違和感がない。
それに比べて自分は。
愛想もないし、素直でもない。
だから。
どうせ叶わない。
そう思っていた。
⸻
文化祭最終日。
玲奈は一斗に告白した。
結果は断られた。
放課後。
校舎裏。
玲奈は泣いていた。
実瑠は何も言えない。
しかし玲奈は涙を拭いて笑った。
「振られちゃいました。」
「……。」
「でも後悔してません。」
実瑠は顔を上げる。
玲奈は真っ直ぐ前を見ていた。
「好きって伝えられたから。」
その言葉は実瑠の胸に深く刺さった。
後悔していない。
伝えられたから。
もし。
自分が何も言わなかったら。
きっと一生後悔する。
そう思った。
⸻
二月十四日。
バレンタイン。
朝から落ち着かなかった。
制服のポケットにはミルクキャンディが入っている。
何度もやめようと思った。
何度も諦めようと思った。
どうせ無理だ。
どうせ結ばれない。
一斗は人気者だ。
優しいし、かっこいいし、誰からも好かれる。
自分なんか選ばれるわけがない。
それでも。
初恋だった。
何もしないまま終わらせたくなかった。
放課後。
実瑠は一斗を屋上へ呼び出した。
夕陽が校舎を赤く染めている。
やがて扉が開いた。
「珍しいね。」
一斗が笑う。
その笑顔を見るだけで泣きそうになる。
実瑠はポケットからキャンディを取り出した。
「これ。」
一斗は受け取る。
中身を見た瞬間、少し目を見開いた。
「ミルクキャンディ?」
「うん。」
「意味わかってる?」
実瑠は小さくうなずく。
「知ってる。」
声が震えていた。
「でも勘違いしないで。」
一斗が首を傾げる。
「返事は期待してないから。」
「え?」
「どうせ振られるし。」
今度は一斗が固まった。
「なんで?」
「だって。」
視線を落とす。
「玲奈みたいな子の方が可愛いし。」
「実瑠。」
「私は愛想ないし。」
拳を握る。
怖い。
泣きそうだ。
それでも。
逃げたくなかった。
「でも。」
顔を上げる。
一斗を見る。
「初恋なの。」
夕陽が滲む。
「だから何もしないまま終わらせたくなかった。」
「振られてもいい。」
「……。」
「好きです。」
言った。
全部。
言えた。
もうそれだけで十分だった。
そう思った。
しかし。
沈黙の後。
一斗が突然笑い出した。
「え?」
実瑠は戸惑う。
一斗は額を押さえながら苦笑した。
「会長。」
「なに。」
「俺、一年以上前から好きなんだけど。」
実瑠の思考が止まった。
「……へ?」
「え?」
「え?」
数秒の沈黙。
そして。
「えぇぇぇぇ!?」
屋上に大声が響いた。
一斗は笑いながらポケットからミルクキャンディを取り出す。
「去年渡したの覚えてる?」
「え、あれ?」
「好きって意味で渡した。」
実瑠は真っ赤になる。
「うそ。」
「本当。」
「全然わからなかった。」
「知ってる。」
「もっと早く言いなさいよ!」
「結構頑張ってたんだけどな。」
そう言って笑う一斗を見て。
実瑠は初めて思った。
この人を好きになれて良かったと。
夕陽の中。
二人の手の中には同じミルクキャンディが握られていた。
それは「あなたが好きです」という言葉の代わり。
そして二人の恋が始まった証だった。
コメント
1件
ああああ、実瑠ちゃんの初恋、報われてよかった!!😭💕 「どうせ振られる」って諦めかけてたのに、まさか一斗も一年以上前からミルクキャンディに気持ち込めてたなんて…!あの雑学本のシーンから「まさか…」ってドキドキしながら読んだけど、両片思いだったのね! 玲奈の「伝えられたから後悔しない」って言葉が実瑠を後押しした流れもすごく良かった。夕陽の屋上、最高のバレンタインだったわ🔥🍬