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 街の人々が何事かと注目を集める中、九条に逃げられてしまった老婆はガクリと地面に膝をつき、悔しそうに拳を握り震わせていた。


「もう少しじゃったのに……」


「おばあさん! 大丈夫ですか? おケガはありませんか?」


 事の顛末を見ていた一人の女性が急ぎ老婆に駆け寄ると、街の人々は安堵したのか興味を無くし、いつもの生活へと戻って行く。


「いやあ、すまんすまん。大丈夫じゃよ」


「あの男性に何かされたんですか?」


「珍しい魔法書を持っていたからの、それで……」


「それで!? それでどうしたんですか!?」


 鼻息も荒く食い気味に聞き返す女性は、早く先を話せと言わんばかりに老婆に圧力をかける。


「あ……ああ、それで買い取ろうとしたんじゃが、逃げられてしもうたわい」


「それだけ?」


「そうじゃが……。なにか変なことを言ったかの?」


「いえ、そうでしたか。それならいいんです」


 急に興味をなくしたのか、女性は老婆を置いて去って行った。


「なんじゃ、助けてくれるんじゃないんか……」


 老婆は仕方なく自らの足で立ち上がると、既に見えなくなってしまった九条に向かって拳を大きく振り上げる。


「ワシは……、ワシは諦めんからのぉ!」


 もちろん、その声が九条たちに届くはずもなかった……。


 ――――――――――


 老婆を置き去りにしたことは気の毒だとは思うが、今は自分の事が優先だとネストは東門へと走った。

 九条を見失えば、元も子もない。


 ネストが九条たちに追い付いたのは町を出て数十分後のこと。先程の全力疾走が効いているのか、歩みは普段より遅く感じられた。 

 ネストは木の陰に身を隠し、付かず離れず九条たちの様子を窺う。地味だがバレないようにするには仕方がない。

 見たところ九条たちに変わったところはないが、いつの間にか魔獣のカガリと合流していた。


 それから順調に尾行を続けるネストであったが、途中何もない街道の道端で、九条が突然歩みを止めた。

 ミアに何かを語り掛け、カガリはミアを背中に乗せると九条を置いて先に村へと駆けて行く。


(何かあったのかしら……。 単に帰還水晶を早く納品するために、先に帰したという可能性も考えられるけど……)


 そんなことを考えていると、一人残された九条がゆっくりネストの方へと振り向く仕草を見せたのだ。


(マズイ!)


 最短の動作で木の陰に身を隠すが、見られてしまった可能性は否めない。


(大丈夫。九条が振り向くより隠れる方が速かったはず……)


 胸の鼓動が高鳴り冷や汗が滲み出るも、ネストは息を殺し集中した。すると、遠くからガサガサと草木の擦れる音が聞こえたのだ。

 ネストがそーっと気づかれぬよう顔を出すと、森の中へと入って行く九条の後ろ姿が目に映る。


(よかった。バレてはいないみたい……。しかし、なぜ森の中に?)


 意外にもその答えはすぐに思いついた。


(ああ、用足しね……)


 所謂トイレだ。恥ずかしい姿は見せられないと、先にミアとカガリを帰したと考えれば辻褄は合う。


 ネストは顔を赤くしながらも、用を足した九条が戻ってくるのをジッと待った。

 ……しかし、九条が出てくる気配は一向にない。急な腹痛であったとしても五分はさすがに長すぎる。


(もしかして気づかれた? いや、そんな気配はなかったけど……)


 ネストは確認のため、意を決して森の中へと入っていった。


 ガサゴソと草木や藪をかき分け、九条の足跡と気配を頼りに歩いていると、奥から金属同士を打ちつけ合う聞きなれた音が耳に入る。


(戦闘音!?)


 ネストは急いで音のする方へと駆け寄ると、戦っていたのは九条で、その周りを取り囲んでいたのは六体のスケルトンだ。

 駆け出し冒険者相手に、スケルトン六体は荷が重い。

 ネストは助けに入ろうと思ったが、九条の実力を見るいい機会かもしれないと足を止め、様子を窺った。


(ピンチになったら助ければいい……)


 ネストから見た九条の戦いぶりは、目を見張るものがあった。

 後方のスケルトンから振り降ろされた斬撃を、ひらりと躱す九条。体勢を崩したスケルトンに対し持っていたメイスで殴打する。

 スケルトンには刺突や斬撃より、打撃の方が効果的だ。故に鈍器適性を持つ九条には相性のいい相手。


「へえ……」


 それにはネストも目を見張る。


(再鑑定すれば、ブロンズに昇格しててもおかしくはないくらいの実力はあると思うけど……)


 九条はピンチになるどころか、むしろ善戦していた。その動きは見事なもので、駆け出し冒険者とは思えない身のこなし。

 九条が二体のスケルトンを屠り、残りは四体。そこでネストは我に返った。


(いくらスジがいいとはいえ、ケガでもされたら寝覚めが悪い)


 大体の実力は理解した。そろそろ助けてあげよう――そう思った時だった。

 ネストは後ろからの不意打ちで、何者かに自分の杖を奪われたのだ。

 それは、瞬きをするほどの刹那の出来事。


「しまった!」


 九条の戦いに気を取られすぎていた。

 ネストが振り返ると、周りはすでに大量のウルフに囲まれていたのだ。


(この数はマズい!)


「グルルル……」


 身体を低く構え、唸り声を上げるウルフの群れ。辺りを見渡すも、逃げ出せるような隙はない。

 森の中では炎系の魔法は使えない。|魔力衝撃波《マナバースト》を使えば自分の周りの敵は一掃出来るが、射程外のウルフたちはどうしようもない。

 |魔術師《ウィザード》は魔法がなければ強さは一般人と同程度だ。戦闘経験の差で多少の前後はあるが、物理系適性には遠く及ばない。


(せめて杖があれば……)


 素手でも魔法を使うことは可能だが、魔法系適性持ちは魔力をブーストするための魔道具を所持していることが一般的。

 オーソドックスな物だと杖や魔法書、それと指輪のような宝石類だ。

 その中でも、ネストの持つ杖は別格だった。魔術の名門アンカース家に代々伝わる魔道具である。

 それを奪われたのだ。何としても取り返さなければならないのだが、それは一匹のウルフが咥えていた。

 少し遠いが魔法の射程範囲内ではある。それを撃ち抜くのは簡単だが、杖を持つウルフのみを倒したところで、状況は変わらない。


(……いや待って……。なぜウルフが杖を狙ったの?)


 腕や足に咬みつかれるならまだしも、最初に杖を奪うというのはおかしい。


(知能が高い……。魔狼の類?)


「そこに誰かいるんですか?」


 茂みの奥から聞こえてきたのは、九条の声。


(そうだ、九条がいた! もうスケルトンを倒したの!?)


 今はそんなこと考えている場合ではないと、ネストは首を横に振った。

 カッパーに助けてもらうゴールドなど聞いたこともないが、なりふり構ってはいられない状況である。


「九条! 私よ! ちょっと手を貸して!」


 ネストはウルフたちから目を離さない。ちょっとでも視線を逸らそうものなら、今にも飛びかかってきそうな威圧感。


「ネストさん……ですか? こんな所で何してるんです?」


 ガサガサと不自然に木々が揺れると、九条は茂みをかき分け現れた。その位置は絶妙で、杖を咥えているウルフの丁度真後ろ。


「九条! 目の前に私の杖を持ったウルフがいるでしょ? なんとか奪い返してこっちに投げて! あとは私がやるわ!!」


「奪い返せばいいんですね」


 そう言うと、九条は警戒もせずウルフに近づいて行き、咥えていた杖に手を掛けるとウルフは当然のようにそれを放した。


「……え?」


 杖はあっけなく九条の手に渡った。奪うという感じではない。むしろウルフは自主的に九条に杖を渡したかのように見えた。

 そして九条がその場にしゃがむと、片耳の欠けたウルフの頭を優しく撫でていたのだ。


(どういうこと……? 九条は獣使いの適性を持っているの?)


 しかし、ギルドの名簿には死霊術と鈍器としか書かれていなかった。

 結果として九条はネストの杖を取り返したのだ。今はその結果だけで十分だと、ネストは余計な詮索をやめた。


「九条! はやく杖をこっちに!」


 ネストが九条に向かって右手を伸ばす。……しかし、その手が杖を握る事はなかった。


「それは、俺の質問に答えてからですね」


 辺りに不穏な空気が流れる。

 九条が言い終わるのと同時に、ネストは後方から何者かに両腕を掴まれ、その手を縛られた。

 振り向こうとしたネストであったが、頭を押さえつけられ、それすらも叶わない。


(九条とは別の協力者がいる!?)


 この短い間に二回も不覚を取ってしまった。それもカッパー相手にである。

 ネストはそれに屈辱を覚え、同時に自分の不甲斐なさに顔を歪めたのだ。

死霊術師の生臭坊主は異世界でもスローライフを送りたい。

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