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✧≡≡ FILE_048: 光と影 ≡≡✧
──ウィンチェスター爆弾魔事件は、“見せしめ”だった。
ルミライトの力を、あえて爆弾という最悪の形で世界に突きつけたのは、「この金属を、兵器に使うな」ただ、その一点を伝えるためだった。
──これは、“夢の金属”ではない。
使い方を誤れば、人を焼き尽くす“光”だ。
キリスは、そう言いたかったのだ。
街を壊し、人々を恐怖に陥れてまで、彼が叫びたかったのは警告だった。
「この金属は危険だ」
「世界中に流通してしまったルミライトは、今すぐ回収されるべきだ」
それが、彼の正義だった。
だが──世界は、彼の言葉を聞かなかった。
否、聞いたうえで、踏み越えた。
「あの金属を使えば、あれほどの威力が出せるのか」
「もっと効率よく、もっと小型に」
「もっと遠くから、もっと確実に」
──そうして動き出したのが、ライト・オブ・ハルバード計画。
皮肉にも、彼の“見せしめ”は、兵器開発の実証実験として受け取られてしまったのだ。
月面に設置されるルミライト製レーザー砲塔。
衛星反射によって、地球上の任意の地点を焼き払う超破壊兵器。
それは、キリスが最も恐れ、最も否定した未来だった。
──彼は信じていなかったのだ。
こんなものを作ろうとする“大人”が、本当に存在することを。
世界が、ここまで欲深く、愚かで、残酷だということを。
彼はただ、願っただけだった。
「同じように、大切な人を失ってほしくない」と。
“守るための爆弾”が、“攻めるための兵器”へと変換されていく現実を、あの青年は、まだ受け入れられなかったのだろう。
──私は、それを彼に教えるべきだった。
「世界は、善意だけでは動かない」
「理想は、理想のままでは終わらない」
そう、伝えるべきだった。
電線の八割に使われたこの金属は、今では“潜在的兵器素材”として政府に回収され、市民の暮らしを守るはずだったものが、逆に人々を脅かす存在になっている。
彼は、世界を照らしたのではない。
──照らしてしまったのだ。
欲望の影を。
開発者である私に残ったのは、後悔だけだった。
人生は、金では買い戻せない。
時も、選択も、取り消すことはできない。
事故で失った仲間の命。
背中を押してしまった少年の未来。
そして、世界そのものを揺るがしてしまったという事実。
その重さに、私は……深い失望を覚えていた。
──それは、彼も同じだっただろう。
どれほど純粋であっても、光は、無数の手に掴まれ、濁されてしまう。
正しさは、正しさだけでは届かない。
あのとき、私は彼に言えなかった。
光があれば、必ず影が生まれるということを。
それでもなお──照らさなければならないものがあるのだと。
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