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✧≡≡ FILE_049: 第三次世界大戦 ≡≡✧
──そして今、この爆弾を解除しなければ、世界は第三次世界大戦へと踏み込む。
『月を奪うための』戦争だ。
この光は、大聖堂ひとつを焼くだけでは終わらない。
世界中がそれを目撃し、世界中が恐怖する。
「この金属が兵器になるなら、我々の手で制御しなければならない」と。
ワイミーは、重い声で言った。
「……政府は、この事件を盾にして、導線に使われたルミライトを、すべて回収する」
沈黙。
「……そして、破棄はしない。回収した後、必ず“兵器”に変える。──実際、もう“作ろうとしている国”がある」
その可能性に、誰よりも早く気づいていたのは彼だった。
それは、この金属を生み出した者だからだ。
そして──この金属に、“夢”を見た者だからだ。
「そんな……」
声が、かすれる。
「……だから、止めなければならない」
ワイミーは、はっきりと言った。
「ここで。──この爆弾を」
言葉は続かなかった。
指先が、わずかに震える。
キリスは、俯いたまま動かない。ローライトも、ただ黙ってその様子を見ていた。
沈黙が、重く落ちる。
やがて、ワイミーは一歩、前に出た。
ライフルを地面に置き、両手を広げる。
「……フラッシュ。すまなかった」
その一言は、風のように柔らかく。
だが、凍りついた空気を溶かすには十分だった。
次の瞬間──ワイミーは、キリスを抱きしめていた。
かつて、彼の研究に目を輝かせ、共に未来を語った若き天才。
世界を変える“光”を、疑いなく信じていた青年。
「私は……あの時、“世界の仕組み”を教えきれなかった。光を作る術は伝えた。だが、その光が何を照らし、何を生むのか──影まで見せることは、できなかった」
腕に、力がこもる。
「私は、お前の父親にも、恩師にもなれなかった。ただの、無責任な発明家だ」
その言葉を受け止めるように、キリスは、ゆっくりと膝をついた。そして、ワイミーの胸に額を押し当てる。
「……どうして……そんなふうに言うんですか……」
震える声。
「俺は……あなたを、誇りに思っている。ずっと。ずっとだ」
強く抱きしめられたその腕には、過去の失敗も、世界への後悔も、そして──ローライトを巻き込んでしまった痛みも、すべてが込められていた。
「すみません……俺……臆病で……」
「臆病でいいんだ、フラッシュ」
ワイミーの声は、父の光のように、あたたかかった。
「恐れを知る者だけが、本当の“光”を作れる。優しい人になれる」
キリスは、ゆっくりと顔を上げた。
涙の跡を残したままの頬。それでも、潤んだ瞳は揺れず、まっすぐ前を見据えている。
「……俺は……もう、逃げません」
そう言って、ワイミーの腕の中から一歩、身を引いた。
視線は、爆弾へ。
「たとえ世界が、この金属を“兵器”と呼ぼうと──俺は、それを“希望”に戻してみせる」
彼の目に映っていたのは、かつて夢見た光が、最悪の形で息づいている現実だった。
「……止めましょう。この爆弾を」
キリスは落ち着いた声で続ける。
「この爆弾には、ペルチェ素子が内蔵されています。金属内部の温度を自律制御するための冷却装置です」
「……ああ」
「本来は“自己冷却”で、内部温度を28.7度以下に保つ設計だった。けれど今は、発熱がそれを上回っている」
ワイミーは、理解した顔で問い返す。
「つまり……その冷却構造を、もう一度“生かす”ということか」
「はい」
キリスは即答した。
「起爆トリガーが“熱”である以上、電気を抜くより──熱を下げるほうが確実です」
「しかし……どうやって?」
キリスは爆弾の底面に膝をつき、手を伸ばした。
「ここに、冷却制御系統の“外部接点”があるはずです」
──カチ。
小さな音とともに、金属の蓋が持ち上がる。
中には、薄い絶縁チューブと、冷却素子の出力端子が並んでいた。
「ここに電源を繋げば、内部のペルチェ層を逆作動させて、再冷却を開始できる」
ワイミーは、思わず息を呑む。
「……だが、それには精密な調整が必要だ。冷やしすぎれば、熱衝撃で格子が崩壊する。──即、爆発だ」
「……」
一拍。
キリスは顔を上げ、はっきりと言った。
「わかってます。これは、危険な綱渡りです」
そして。
「──だから、俺がやります」
その言葉に、迷いはなかった。
恐怖はある。
だが、逃げないと決めた人間の声だった。
光を恐れ、それでも光を選んだ者の──声だった。