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【菅原天満宮】
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奈良県は菅原天満宮の巨大な楠の木々が参道を覆い、眩しいぐらいの青天の木漏れ日が玉砂利の地面に美しい影絵を描いている
境内入口には朱塗りの大鳥居がそびえ立ち、その向こうには本殿の優美な姿が見える
屋根の反りは空に向かって伸び、金色に輝く破風が陽光を受けて眩しいほどだ
この荘厳な社殿を背景に、まるで映画のワンシーンのような白無垢に身を包んだ花嫁くるみと、黒の紋付袴に身を包んだ、花婿洋平の姿が、菅原天満宮に訪れている観光客たちの視線を一斉に集めていた
ザワッ「素敵だわ!」
「何て美しいカップルなの!」
「Oh!Beautiful!!」
外国人観光客は日本の伝統的な結婚式の美しさに見とれ、興奮気味にシャッターを切っている
他の観光客達も感嘆の声を上げ、スマートフォンやカメラを一斉に二人に向ける
一部の若い観光客カップルは、二人の伝統的な装いに息をのみ、うっとりといつまでも見とれていた
くるみの甥っ子の雄太は「洋平君、かっこいいー!」と目を輝かせながらピョンピョン跳ねている
雄太の両手にはメジャーリーグバジャーズの、小谷選手のサイン色紙が握られていた、洋平はしっかり雄太との約束を果たしてくれた
そして洋平とくるみは、周囲の視線を意に介することなく、神聖な境内で静かに前を向き、二人だけの世界に浸っていた
しとやかに、俯き加減のくるみが真っ白な綿帽子から、上目遣いで洋平を覗いてニッコリ微笑む
純白の白無垢に赤い唇が妖精の様だ、お母さんの言うとおり神社挙式にして本当によかった
こんな可愛いお嫁さんを貰うなんて、とても嬉しいと洋平も誇らしげに、くるみを見つめて微笑んでいる
空気は清浄で、どこからともなく香る檜の香りが鼻をくすぐる。遠くから聞こえてくる鈴の音がこの場所の神聖さをさらに引き立てる
境内の両サイドには、くるみと洋平の親族が約100人ほどこの荘厳な舞台で、新たな二人の人生の門出を祝福していた
やがて雅楽の曲と同時に神主が白い装束に身を包み、ゆっくりとした足取りで二人の前へやってきた
その手には、清らかさを象徴する榊の枝が握られている
親族席の最前列にいるくるみの母は、早くもハンカチで目頭を押さえている。母は麻美の時とは違う留袖と帯を新調していた
一方洋平の親族側の最前列には、みごとな燕尾服の洋平の祖父が誇らしげに大股を広げ間に杖をついて座っている
三々九度の儀式では、新郎新婦のくるみと洋平は交互に杯を口に運んだ
日本の伝統を継承した夫婦の口づけ・・・洋平が酒が注がれた盃をクイッと飲み微笑んでクルミに差し出す
君に一口・・・・
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くるみも恭しく盃を両手で受け取り、一口飲んで洋平に差し出した
あなたにも一口・・・
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洋平はいたずらっぽく思わせぶりにくるみを見つめ、盃にうっすらとくるみの口紅が付いてる所に、自分の唇をわざとつけて酒を飲んだ
ポッとくるみが頬を染める
もう・・・洋平君ったら・・・親戚のみなさんが見ているのに・・・
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お互いの目を見つめ合い、微笑み合い・・・杯を交わす度に胸は高鳴り
二人の絆がより深く結ばれていく光景を親戚一同もうっとりと見守った
くるみはとても幸せな気持ちでいっぱいだった
紋付き袴姿の彼ときたら、なんて逞しくて素敵なんだろう、こんな人が自分の旦那様になるなんて・・・
きっと私は世界で一番幸せな花嫁ね・・・
そう思うとまた胸が熱くなり・・・涙を堪えるのに必死だった
最後に、神主は榊を振りかざし、清めの儀式を行った
榊の葉が風になびき・・・・
その一振りごとに二人の永遠の愛が菅原天満宮を司る神々の祝福のもと・・・大気に溶けていく様に輝いた
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神殿から結婚式場までの道のりで二人は母が用意した人力車に乗せられた
朱色に塗られた人力車は静かに、しかし、人力とは思えないほど力強く進んでいく
車夫の優しい足取りは、まるで二人の未来への旅路を象徴するかのようだった
遠くに見える、これから行われる披露宴会場まで、伝統と現代が交差するこの道
人力車を巧みに操る車夫は、50代半ばの温厚な表情の男性だった
彼は、長年の経験から醸し出される落ち着いた雰囲気で、くるみと洋平に話しかけた
「お二人さん、今日はさぞかしお慶びでしょうな、この道、何度も走らせていただいておりますが、こんなに晴れやかなお二人は初めてでございますよ」
花婿の洋平が丁寧に答える
「ありがとうございます。おかげさまで、とても幸せです」
花嫁のくるみも小さな声で
「ありがとうございます」
と答え、洋平の手をそっと握った、近くの結婚式場まで人力車が静かに進む中、歩道には国内外からの観光客が立ち止まり、この伝統的な光景に見入っていた
アメリカからの中年夫婦が興奮した様子で、写真を撮りながら大声で叫んだ
「Oh, how beautiful! Congratulations!」(なんて美しいの!おめでとう!)
日本人の年配の女性達のグループもにこやかに手を振りながら、次々とおめでとうと声をかけた
洋平は丁寧に観光客に会釈を返し、くるみは恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、幸せそうな笑顔を浮かべた
「本当に・・・お母さんのプランはどこまでも驚くわ・・・こんな人力車で移動なんて・・・」
人力車に揺られながら、くるみは小声で洋平に囁いた
「そうかな?僕はみんなに祝福されて本当に幸せだよ、今からの披露宴もお母さんのプランの何が出て来るんだろうと、ワクワクしてるよ、何でもゴンドラに乗って登場だろ?キャンドルサービスではレーザービームとドライアイスの演出だろ?ブラスバンドの演奏に、君の小さい頃のスライドショーは40分あるそうだよ」
「ええっ!そんなの聞いてないわ!恥ずかしい!」
驚くくるみを見て、洋平はワハハハと笑いながら言った
「いいじゃないか、僕たちの新しい人生の門出なんだからお母さんとうちの祖父に思いっきりやらせてあげようよ、僕はこんなに可愛いくるちゃんを見れて幸せだよ」
くすっ「それを言うなら袴姿の洋平君もとっても素敵私・・・式の時ずっと見とれてたのよ」
イチャイチャ・・・「え~そうかな~♪くるちゃんほどでもないよ~世界で一番綺麗だよ~」
「洋平君こそぉ~(はぁと)」
車夫はそんな二人の会話を聞いてニヤニヤしながらさらに丁寧に人力車を操り、結婚式場へと向かっていった
「僕達これからずっと一緒だね、今思えば、くるちゃんに初めて会った時から、こうなる予感はなんとなくしてたんだ 」
そよ風に洋平の髪がなびく、二人はじっと見つめ合う
「初めて会った時って?それってあの韓国ベーカリーでラズベリータルトを取り合った時?」
キョトン?とくるみが首を傾げて聞く
「実はそのずっと前に本当は会ってるんだ、君は忘れてる感じだけど」
「ええ!そうだったの?言ってくれればよかったのに!ねぇ?いつ?いつ私達は出会ったの?」
「それは内緒~~~♪」
「もう~~~ずるい~~教えてよ、ようへいくぅ~~ん!」
「ハハハハ♪」
くるみの必死のおねだりが、可愛くて可愛くて洋平はいつまでも笑った
そして雲一つない青天を見つめて思った
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君は忘れているけど・・・・
あれは・・・・
奇跡の出会いだったんだよ・・・・
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