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なんだろこの空気。すっごく緊張する。
茶を淹れ終えて渡すと、颯懔は一口だけ飲んだ茶杯をコトン、と置いた。
「明明」
「はい」
「今この瞬間、お主と俺は師匠と弟子としてではなく、ただの男と女として聞いて欲しい」
「はっ、はい」
「好きだ」
「はい。……えっ、えぇ?」
「俺は本音を言うと婚約を解消したくないし、明明を妻にしたいと思っておる」
「…………」
何が起こっているのか頭がついてこない。自分を落ち着けるために、自分で淹れた茶を飲んだ。うん、今日も完璧な淹れ具合。
「あの、師匠」
「今は師匠じゃないと言ったであろう」
「えっと、颯懔様」
「なんだ。嫌ならはっきりと断ってくれて構わない」
「嫌……とかじゃなくてですね、可馨様はどうなったのですか? まさか、振られたとか」
私がいなかった1ヶ月の間に、2人はまた仲違いでもしたのだろうか。そうだとしたら俊豪といい、颯懔といい、人を慰み者みたいに扱うのはやめて欲しい。
「可馨? まさか例の相手が可馨だと分かっていたのか」
「いくらなんでも分かりますよ」
そこまで疎くない。バレてないと思っていた颯懔にむしろ驚く。
「蟠桃会の時に可馨様とよりを戻したのですよね」
「よりを戻す?」
なんの話しだ、とでも言いたげに眉をひそめている。
「隠さなくても良いですよ。私、見てしまったんです。お茶を持って行こうと思ったら、可馨様が颯懔様の客室に入っていく所で……。本番は無理でも、その……したんですよね? 途中まで」
明け透けな言い方だけれどもういいだろう。ここまできたら。
「いや、そんな事にはなっていない。あの時俺は過去の自分を精算するために、はっきりと終わったのだと確認したんだ。何もしていない」
「えぇ?! だって翌朝、スッキリしたって言ってたじゃないですか」
「400年分溜まっていた鬱憤を晴らしたからな」
「じゃあ本番はこれからって何ですか」
「それはお主に俺の気持ちを伝えて、正式に婚約者になって貰おうと考えての事だ」
「…………」
「なんだ明明。お主、意外と頭の中はエロいのぅ」
うううぅぅっ。
何も言い返せず卓に突っ伏した。恥ずかし過ぎる勘違いだ。
「誤解は解けた、ということで良いか?」
チラリと顔を上げてコクコクと頷く。まともに顔を見れない。
ふぅ、と安堵の息をついた颯懔が立ち上がり、私の座る横まで来て目線を合わせるように跪いた。
「それでは改めて、明明の気持ちを聞かせて欲しい。嫌ならそれで構わない。これまで通りに接すると約束する。だから正直な気持ちを教えて欲しい」
そんなに真っ直ぐに見つめられたら、どんな顔をして答えれば良いのか分からない。顔は熱いのに手が冷えてる。
たった一言、答えればいいだけなのに。
何ヶ月か前には、スラッと言えてしまったあの言葉。そう言えば最近では俊豪にも言った気がする。
それなのに今は喉元まできて詰まってる。無理やり出した声は、掠れて震えた。
「す……好きです。私も……颯懔様の事が」
やっとの思いで声に出すと、鼻の奥がツンとして涙が出そうになった。よく分からない。何でだろう?
ただ好きだと、自分の気持ちを伝えただけなのに。
溢れ出てきた感情が涙に変換されているみたいだ。
涙を拭ってくれる手の平が気持ち良くて頬を擦り寄せると、そのまま固定されて唇を塞がれた。
好き合う人とする口付けは、こんなにも甘いのか。
口の中をなぞられ唇を食まれる度に、体の芯が熱くなる。
もうどちらの唾液なのか分からない。
溶け合い、混ざり合う。
颯懔の手が腰にまわされた拍子に、カシャンッと何かが落ちる音がした。
「あ……」
「鱗か」
拾い上げられた鱗は、蝋燭の灯りでキラリと光った。着替えた時に部屋に置いてくれば良かったのだけど、こんな価値のある物をおいそれと閉まっておくのも怖くて、結局懐に入れてきてしまった。貧乏性ってやつだ。
「そう言えば、どうして鱗なんて欲しがったのだ?普段のお主なら、金目の物に目が眩むなんてしないだろう?」
「それはですね……これで|海狗腎《カイクジン》と御種人蔘が買えるかと思って、つい」
「海狗腎と御種人蔘? 何でまたそんなものを……ってまさか……?」
高価すぎて手が出せなかったけれど、龍の鱗があれば絶対に交換して貰えると考えた。
だって、アソコの治療薬に欲しかったんだもん。
何に使おうとしたのか察しがついた颯懔が「はぁぁぁぁ」と私の肩に額を乗せて、長くため息をついた。
「それならもう必要ない」
「?」
「薬など無くても、もう痛いくらいだ」
視線を下へ移すと、抱き寄せられている私の下腹の辺りには硬いものが当たっている。
え……うそ。
もう一度視線を上げて颯懔の顔を見ると、苦笑いした。
「治った。我慢できぬ」
「ひゃあっ」
垂直に抱きかかえられ、脇にあった寝台へと下ろされた。
激しく唇を貪られたかと思ったら、今度は耳を食まれる。吐息と舌のくすぐったいような、それでいて背筋がぞくぞくするような感覚に見悶え体を捩らせると、衿口から入ってきた手に膨らみを揉みしだかれた。
いつ解いたのか。
腰帯が解かれてほとんど服が脱げかかっている。
艶本を読みながら脳内で練習したって、どれだけなの?!
あまりにも手際がよすぎる。