テラーノベル
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その一言から、新一の行動は早かった。
放課後の工藤邸。薄暗い書斎で、新一は大型モニターの前に座り、猛然とキーボードを叩いていた。横では平次が、呆れ半分、興味半分でその様子を覗き込んでいる。
「おいおい新一、正気か? 警察の情報網をハッキングするなんて、バレたら探偵生命どころか一発アウトやぞ」
「わかってる。だから警察の表のデータベースじゃなくて、キッドの予告状の電波発信元と、怪盗の目撃情報を照合した独自の裏ルートを解析してんだよ」
新一の指が激しく動く。画面には複雑なコードや、キッドの出現ポイントの座標データが次々と流れていく。
「あいつが怪盗じゃなかったら、一生の相棒になれた気がするのに……だからこそ、あいつの『日常』を知りたいんだ」
画面のログが高速でスクロールし、特定のエリアを絞り込んでいく。東京都練馬区、江古田周辺。直近の目撃証言、ヘリの追跡ルートの死角、 tender そしてキッドが犯行日に学校を休んでいる確率――。
全てのデータが、パズルのピースのようにはまっていった。
エンターキーが強く叩かれる。
『検索結果:江古田高校 2年B組 黒羽快斗』
画面に表示されたのは、ブレザーを着て、悪戯っぽく笑う一人の男子高校生の顔写真だった。
「……見つけた」
新一の声が、微かに震える。
「へえ、これが怪盗キッドの素顔か。お前にどことなく似てんなぁ」
平氏は感心したように画面を見つめ、新一の肩を叩いた。
「これでスッキリしたやろ。明日、江古田高校に突撃して、その黒羽快斗って奴の面拝みに行こうや!」
しかし、新一は動かなかった。キーボードの上に置かれた手が、小さく握りしめられている。
「……いや。行かねぇ」
「はぁ!? ここまでやっといて行かへんのかい!」
平次が声を裏返して突っ込む。
新一はモニターを見つめたまま、苦しげに視線を落とした。
「行く覚悟が……つかねぇんだよ。もし会いに行って、あいつが本当にただの普通の高校生として笑ってたら、俺は……どうすればいい? 探偵として、あいつの日常を壊して警察に突き出すのが正しい。けど、もし目の前にいるのが『怪盗じゃないあいつ』だったら、俺はきっと、あいつを捕まえられなくなる」
新一は顔を覆い、深くため息をついた。
「あいつが怪盗じゃなかったら、一生の相棒になれた気がするのに……。その幻想を、自分の手で確かめにいくのが、急に怖くなっちまったんだ」
画面の中で笑う「黒羽快斗」の写真を、新一はそれ以上見ることができず、静かにモニターの電源を落とした。
部屋に静寂が戻る。平次は何も言わず、ただ新一の肩をそっと、力強く掴むことしかできなかった。
コメント
1件
読了しました。平次のツッコミがいいアクセントになってますね。新一が「行く覚悟がつかねぇ」と自白するところ、すごく人間味があって良かったです。探偵としての正義と、一人の人間としての情の間で揺れる姿が丁寧に描かれていて、続きが気になります。「あいつが怪盗じゃなかったら相棒になれた」という台詞、強い伏線ですね。
花梨
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千導 渉
76
47